自己複製能・腫瘍創始能といったがん幹細胞を特徴付ける形質を喪失させる手法の開発はがん根治実現のカギを握ると考えられるが、こういったがん幹細胞に特徴的な形質が如何なる機序で維持されているかはいまだ不明な点が多い。これに対して我々は「がん幹細胞の糖代謝活性が幹細胞形質維持調節に重要な役割を担っている」という新たな仮説を着想し、本課題では、このような仮説の検証を目的として開始した平成26年度挑戦的萌芽研究課題「がん幹細胞運命決定の糖代謝レオスタット仮説実証を通じて膠芽腫根治モデル創出に挑む」に引き続き、解糖経路阻害により幹細胞性が失われる機序について検討を行った。その結果、解糖経路阻害により細胞内活性酸素(Reactive Oxygen Species; ROS)レベルの上昇が誘導され、これが原因となって幹細胞性が抑制されている可能性を示唆する結果が得られた。そこで細胞内ROSの解糖経路阻害による幹細胞性抑制における役割を検討するとともに解糖経路阻害により細胞内ROSレベルが上昇する機序について検討を行ったところ、まず細胞内ROS上昇により幹細胞性喪失がおきることが確認された。さらにROS上昇による幹細胞性喪失の機序としてグルタチオンを介した制御の可能性が示唆されたためグルタチオン代謝に深く関わるグルタミン代謝の関与を含めて検討を行った。その結果、種々実験条件の検討を行いつつ実験を実施したものの、当初予想に反して、グルタミン枯渇やグルタミン代謝阻害による細胞内ROSの上昇はこれまでのところ再現性をもって確認するまでに至っていない。このような結果は実験手法改善の必要性を示唆する一方で、仮説再構築の必要性についても考慮が必要であることを示唆している。
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