研究課題/領域番号 |
15K15537
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池淵 祐樹 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (20645725)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 骨代謝 / 骨細胞 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、骨吸収と骨形成の時間的・空間的な連動性のメカニズムの一端を明らかにすることで、骨代謝制御の理解を深めることを目的とする。骨基質中に埋包された骨細胞との接触により破骨細胞の分化が誘導されることが示されつつあり、メカニカルストレスに伴う骨細胞の細胞死が一連の現象の制御にどのように関与するのか解析を行う。 これまでの研究より、マウス初代培養骨細胞のコラーゲン、マトリゲル混合ゲルによる三次元培養系を構築している。これに対してメスで切れ込みを入れ、骨組織で観察される微細な亀裂を模してその影響を検証した。核の二重染色により細胞死を観察したところ、ゲル破断部の近傍においてのみアポトーシスが認められた。破断部より同心円状に培養ゲルを切り出し、骨細胞中のCaspase-3/8の発現量を定量すると、同様に破断部近傍でのみmRNAの誘導が確認され、遠位ではその影響は認められなかった。一方で、破骨細胞活性化の主要なリガンドであるRANKLの発現量は、やはり破断部近傍で顕著な誘導が認められ、また、距離が離れるにつれてその程度は低下するものの有意に上昇していた。これらより、アポトーシス細胞だけでなく、何らかの刺激を受容した近隣の骨細胞でRANKLの発現が誘導されることが示唆された。RANKLの誘導がCaspaseの汎阻害剤の存在下では有意に抑制されたことも、この仮説を支持するものと考えられる。 続いて、骨細胞密度を段階的に減らして同様の検討を行うと、細胞間接触のない状態では、破断部遠位でのRANKL誘導は認められなかった。混合ゲル中の物質の拡散性を蛍光標識された様々な分子で確認すると、抗体など高分子量のものはほぼ拡散しないのに対し、ペプチド程度の低分子量では遠位まで拡散した。以上から、アポトーシスに伴うRANKLの誘導は、骨細胞間の直接的な接触、もしくは分泌される低分子によると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
骨細胞は、その生理的な重要性が主にin vivoでの解析から明らかにされつつあるものの、形質をよく反映したモデル細胞が確立されておらず、また骨組織より単離した初代培養骨細胞は培養に伴い脱分化を受けやすいことが研究の妨げとなっている。代表者等のこれまでの研究より、I型コラーゲンとマトリゲルを混合したハイドロゲルで包埋することで、骨細胞はその形質を長期に渡って保持することが示されている。今回の解析では、ハイドロゲルの局所をメスで破断すると、in vivoでの骨マイクロクラック周辺で観察されるものと同様に、骨細胞のアポトーシス、およびRANKLの発現誘導が認められた。ハイドロゲル中での三次元培養で、骨細胞のメカニカルセンサーとしての機能評価が可能なことは、今後の解析を進める上で非常に重要な知見であり、大きな進捗と考えられる。また、使用する混合ハイドロゲル中の物質の拡散性を確認したことで、RANKLの発現誘導に何らかの分泌因子が介在する場合には、その分子サイズからある程度の絞り込みが可能になると思われる。網羅的なオミクス解析を実施する前に対象を限定できることは、解析に要する労力、時間、コストを大幅に減らすことに繋がるものと期待される。 以上より、本課題の進捗状況は概ね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度での解析からのみでは、隣接する骨細胞のアポトーシスとRANKLの発現誘導に、骨細胞間の直接的な接触が必要なのか、あるいは低分子の介在因子が分泌されているのかの判別が出来ない。この点を検証するために、多孔性のフィルターを用いることで細胞間の接触を制限した状態で同様の検討を行う。フィルターのポアサイズ等を変更することで細胞間の接触強度が変わることは、骨細胞-破骨細胞を用いた解析から検証できており、実験系として大きな問題は生じないと思われる。 骨細胞間の直接的な接触の重要性が示唆された場合は、細胞間の情報伝達において主要な役割を担うギャップジャンクションの関与を想定して解析を行う。骨細胞に主に発現するConnexin43の発現抑制下で、同様に骨細胞にアポトーシスを誘導させた場合に、遠位の骨細胞へRANKL発現誘導が伝播されるか否かを検証する。また、どのような細胞内シグナル伝達経路が活性化されているかを明らかにするために、種々の蛍光プローブを用いたスクリーニングを並行して進める。 骨細胞からの分泌因子の寄与が無視できない場合は、骨細胞の培養上清、および包埋するハイドロゲルを消化した産物中に含まれる分子の網羅的な同定を試みる。メカニカルストレスにより誘導されるアポトーシスと、他のケミカルな刺激によるアポトーシスなど、数種類の対照群を置きつつ特徴的な変動が認められる分子を探索する。解析に使用する高分解能のフーリエ変換質量分析計は他の研究課題でも使用しており、遂行に大きな問題はない。候補分子が同定された場合は、骨細胞における発現をshRNAで抑制、あるいは培養培地中に添加など行い、その効果を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度では、概ね計画通りに実験試薬や消耗品を購入し、物品費として計上している。一方で、進行中の予備的な検討結果も多く、研究成果として学会での報告や論文投稿には至っていない。そのため、学会参加のための旅費や英文校正・投稿費用として計上していた費用が未使用となり、次年度に持ち越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
初年度に引き続き、種々のin vitro解析を実施するために必要な実験試薬や消耗品の購入のために物品費を、また研究成果の報告のために、学会参加費として旅費を、論文投稿時の英文校正・投稿費用をその他の区分で使用予定である。
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