前年度に引き続き、生体内において骨細胞にかかるメカニカルストレスを模した、培養ゲルの破断ストレスによる骨細胞のアポトーシスが近傍の細胞に与える影響をより詳細に解析した結果、破骨細胞の分化・成熟を促進する主要な分子であるRANKLだけでなく、その阻害分子であるOPG、骨芽細胞による骨形成活性を負に制御するSOST等の発現変動が同時に認められた。一方で、ゲル破断面から距離が離れるほど一連の効果が減弱する傾向が認められることから、障害を受けた骨細胞から生じる何らかのシグナル、あるいは分泌因子が、骨カップリングの精密な制御機構の一端を担うことが推測された。 続いて、培養面を分断するようにポアサイズの異なる多孔性のフィルターを配置し、細胞間の直接的な接触を徐々に制限したところ、ゲル破断を行なった側に存在する細胞では同様にRANKL等の誘導が認められた一方で、フィルターを挟んで逆側に存在する骨細胞への作用は有意に減弱していた。このことから、空間的な距離に加えて、骨細胞間の直接的な接触が刺激の伝達に不可欠である可能性が示唆された。ただし、多くの細胞間でのシグナル伝達に関わることが知られるConneixn43の阻害剤を用いた検討では有意な効果は得られず、調節機構の詳細に関しては今後の更なる検証が必要である。 また、骨細胞から分泌されるシグナル調節因子として知られるプロスタグランジンE2、一酸化窒素の寄与を検証するために、それぞれの蛍光プローブ存在下でゲル破断ストレスを負荷したところ、破断面周囲での蛍光強度の増大が観察された。しかしながら、それぞれのシグナル経路の選択的な阻害剤は有意ながらも弱い効果しか示さず、その寄与は小さいものと考えられた。今後、より網羅的なアプローチとしてショットガンプロテオミクスによる骨細胞分泌因子の一斉解析も検討しており、新規知見が得られることを期待している。
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