筋は運動機能における動力源であり、組織幹細胞による再生メカニズムとMyoDに始まる発生分化転写制御システムの研究モデルとして長らく医学・生物学をリードしてきた。我々は、筋分化に必須の転写因子としてRp58を同定、さらに、ヒト筋芽細胞の分化系を用いたゲノムワイドなメチル化解析で、Human myoblastの分化過程において筋関連遺伝子の多くでpromoter領域のDNAメチル化レベルの上昇が見られることを発見し、筋分化過程においてde novo DNAメチル化が分化に重要な遺伝子発現制御を担っている可能性を示した。また、Rp58に認識されるプロモーターが効率にDNAメチル化を受けることを明らかにした。哺乳類におけるde novo DNAメチル化酵素にはDnmt3aおよびDnmt3bが知られており、これらの遺伝子をknock-outすると正常な発生が進まなくなることからde novo DNAメチル化は発生に必須であると考えられる。造血幹細胞においてDnmt3aをknock-outすると分化が障害されることが報告され、体性幹細胞の分化においてもde novo DNAメチル化が必須であることが示唆されているが筋前駆細胞における同様の報告はない。本研究では、さらに、DNMT3Aコンディショナルノックアウトマウスを用いて、DNAメチル化の筋サテライト細胞における筋再生を促す機能を解析し、Dnmt3aを欠損した骨格筋幹細胞ではCDK inhibitorであるp57Kip2が高発現しており細胞増殖が障害されていることを見出した。Dnmt3aはp57Kip2の発現調節を介して骨格筋幹細胞の増殖を制御し骨格筋の再生を制御する一因となっていると考えられ、エピジェネティックスレベルでの筋分化・再生の分子機序の一部を明らかにした。さらに、Rp58とDNAのメチル化の関係について研究を進めている。
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