研究課題/領域番号 |
15K15547
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
齋藤 直人 信州大学, 先鋭領域融合研究群バイオメディカル研究所, 所長/教授 (80283258)
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研究分担者 |
中山 昇 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (80336445)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 四肢機能再建学 / 骨折 / 骨移植 / 骨再生 / エンテーシス |
研究実績の概要 |
チタン繊維に圧縮荷重とせん断荷重を同時に負荷させることでチタンペーパーを試作した。アスペクト比(繊維の直径と長さの比)を変えた3種類のチタンペーパーについて、1.細胞培養実験、2.in vivo の骨再生試験、3.骨欠損修復実験、4.骨折治癒実験、5.エンテーシス再建実験などを行い、最適なチタンペーパーを決定した。これらの研究によって、新規チタンペーパーの整形外科治療における以下の5 つの用途の有用性と、それぞれに適切なチタンペーパーの性状を探究する。①粉砕骨折や指骨等の骨折で、微小な骨片を母床の骨に固定する。②骨欠損修復において、チップ状の骨や海綿骨の移植、顆粒状ハイドロキシアパタイトの充填した欠損部をカバーする。③in vivo の骨再生医療において、多孔性足場材として骨形成タンパク(BMP)を複合し、必要部位に添付する。④in vitro の骨再生医療において、チタンペーパー上で骨形成細胞を増殖した新しい細胞シートを開発し、骨再生部位に移植する。⑤外傷や人工関節手術などで必要となるエンテーシス(腱と骨の付着部)の再建において、チタンペーパーでオーバーラップして縫合することにより、腱と骨の組織が入り込み結合を誘導する。本研究で検証するチタンペーパーの5 つの用途は、全て現在の整形外科治療における重要な課題を解決する。①粉砕骨折や②骨欠損修復への応用は実現性が高く、早期に整形外科手術への導入が期待できる。③in vivo の骨再生医療は現在一般臨床に普及していないが、本研究により高い有効性を認められれば、その普及に貢献する。④in vitro の骨再生医療は新規性が高く、再生医療のイノベーションを生み出す可能性がある。⑤エンテーシス再建は整形外科の多分野における古くからの課題であり、チタンペーパーにより強固な結合が実現すれば、大きな意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
以下に実施した5項目の進捗状況を記載する。1.細胞培養実験:MC3T3-E1細胞をチタンペーパー上とチタン圧延材上で培養し、細胞増殖と細胞形態の観察を行った。AlamarBlue法を用いて蛍光強度を測定して比較し、両群で細胞増殖能に差は認めなかった。細胞形態観察評価として細胞核をヘキストで染色して蛍光顕微鏡で観察を行った。両群の細胞形態に異常は認められなかった。2.in vivo の骨再生試験:チタンペーパーにrhBMP-2を添加し、マウス背筋筋膜下に埋植して3週後の異所骨形成をマイクロCT,組織標本で評価した。骨形成体積および総骨質量は、チタン圧延材群とチタンペーパー群でほぼ同等であった。両群共に骨組織標本で異所性骨形成を認めた。3.骨欠損修復実験:ラット大腿骨から骨髄細胞を採取し、間葉系幹細胞を初代培養した後にrhBMP-2で骨芽細胞へ分化誘導した。チタンペーパー上に蛍光染色した骨芽細胞を播種し、蛍光顕微鏡で細胞接着を観察した後、ラット頭蓋骨欠損部に移植した。コントロールとして、細胞を播種しないサンプルを移植し比較した。骨芽細胞を接着させていない群では、埋植8週後組織標本で明らかな同所性骨形成を認めなかった。細胞を接着させ移植した群の骨組織像の評価は現在進行中である。4.骨折治癒実験:ラット大腿骨骨折モデルを作製してチタンペーパーによる骨固定を試みた。骨折部の再現性を得られるような骨折固定モデルの作製に難渋した。現在非荷重骨であるラットの頭蓋骨での粉砕骨折モデルにつき検討中である。5.エンテーシス再建実験:ラット踵骨剥離骨折モデルを作製中である。以上の様に、平成27年度計画を実施し、平成28年度計画を前倒して開始している。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究成果から、もともとチタンの持つ生体親和性に加えて、チタンペーパーの織り成す繊維性構造により細胞が接着可能な面積が増大するため、細胞の足場や試薬のキャリア能を有し,骨再生能力を高める可能性を持ち合わせていることが明らかになった。平成28年度も引き続き検討を重ねる内容は、4.骨折治癒実験である。実験モデルを安定的に作製するために非荷重骨であるラット頭蓋骨を用いる。ドリルとリュウエルを用いて5㎜大の円形の粉砕骨折部を作製する。5㎜大の小円形に採型されたチタンペーパーを用いて被覆固定する。コントロールとして同サイズのチタン圧延材で固定した群を比較する。6週後の同所性骨形成能を組織標本により評価する。また、5.エンテーシス再建実験もラット踵骨剥離骨折モデルを確立し、研究を進めていく。この際に、腱とチタンペーパーの結合に培養細胞や成長因子を活用するなど、新しいアイデアを導入していく。更に平成28年度は、チタンペーパーのもう一つのメリットである形状を自由に制御して使用できる点について新たに検討していく。平成27年度に実験に用いたチタンペーパーの小円形ペレットとは違う形状に採型したものを用いて非荷重部位での骨再生を目指す。非荷重骨であるウサギ尺骨骨幹部中央に5mm長の小骨片1つを含む3-Partの粉砕骨折モデルをボーンソーで作製する.この小骨片に5mm×20mmの長方形にハサミで形成したチタンペーパーを圧着させて架橋し、両端をステンレス製のスクリューで固定する。コントロールとして、同サイズのチタン圧延材で固定した群及び固定しなかった群を作製し比較する。各群の骨形成能について、移植3週後、6週後に単純レントゲン及び組織標本による骨形成評価を行う。
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