研究課題
CINCA症候群(Chronic Infantile Neurologic Cutaneous and Articular Syndrome)の原因となるNLRP3遺伝子の点突然変異は、インフラマゾーム非依存性の未知の分子機構により成長板軟骨細胞の異常増殖を引き起こす.本研究では、その分子機構を解明するために、変異陽性細胞と陰性細胞の相互作用に着目し、新規の培養器具を用いた共培養系等により、変異NLRP3により活性化される細胞間相互作用因子を同定することを目指す.その結果はCINCA症候群における軟骨病変に対する新規治療法の開発とともに、成長板軟骨の増殖分化機構の理解にも寄与するものと期待される.平成27年度は下記の成果が得られた.1. 変異陽性及び変異陰性細胞のラベリング変異陰性及び変異陽性CINCA-iPS細胞にそれぞれ、GFP及びmCherry遺伝子を発現するベクターを、AAVS遺伝子座に導入し、それぞれを識別できる系を確立した.2. 混合培養による相互作用の解析標識した変異陰性及び変異陽性CINCA-iPS細胞を、これまでに確立した神経堤を経る培養法により軟骨前駆細胞へ分化誘導し、その後に両者をいくつかの比率で混合した細胞集団を作製し、3Dの軟骨分化誘導実験を行った.その結果、変異細胞を少数混合した場合でも、変異細胞のみのものと細胞塊のサイズは同等となることが判明し、やはり細胞間相互作用が存在している可能性が示唆された.
2: おおむね順調に進展している
モザイク疾患の利点を生かして同一患者から樹立した変異陽性細胞と陰性細胞を比較検討してきたが、複数の細胞の解析から、陽性細胞間及び陰性細胞間でも表現型に相違があることが判明した.ゲノム情報は同一であることから、この相違はリプログラミングによりエピゲノムの相違であると想定された.そこで患者由来細胞に加えて、標準的iPS細胞にゲノム編集技術を用いて変異を導入した細胞を作製して解析を追加することを計画した.その他の点では、計画は順調に進行している.
平成28年度は下記の方策で研究を推進する.1.混合培養による相互作用の解析:2Dの軟骨分化誘導後、酵素処理により単一細胞としFACSを用いて、陰性細胞と陽性細胞に分離し、それぞれの集団に関して、トランスクリプトーム及びプロテオーム解析を行い、特に変異陰性細胞が混合培養によってどのような変化を遂げたのかを詳細に解析する.2.培地共有培養による相互作用の解析:連携研究者が開発した培地共有培養装置を用いて解析標識した変異陽性および陰性iPS細胞を、軟骨前駆細胞へ分化誘導した後、フィルターで隔別されたwellに細胞を播種して、2Dの軟骨分化誘導実験を行う.最終的に形成された軟骨塊の定量的評価、サイズ及び基質としてのGAGの定量的評価を行い、細胞塊を形成している細胞の遺伝子発現等を評価する.3.相互作用因子の同定:上記の混合培養及び培地共有培養による変異陰性細胞のトランスクリプトーム及びプロテオーム解析から、変異陽性細胞から陰性細胞へのシグナルの絞り込みを行う.候補となったシグナルに関して、変異陽性細胞に対する、shRNAあるいは阻害剤が使用可能であれば、阻害剤を用いたシグナル阻害剤実験を行う.また変異陰性細胞において該当シグナルを活性化させるために、遺伝子導入あるいはアゴニストが使用可能であればアゴニストを作用させ、活性化実験を行う.以上の実験により、CINCA症候群において変異NLRP3が活性化している軟骨増殖因子を同定する.
一部の必要消耗品の発注が年度末となり、年度内の納入・使用が困難と判断し、次年度に繰り越して使用することとした.
繰り越した研究費は、次年度の研究費と合わせて消耗品の購入にあてる予定である.
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件、 招待講演 4件)
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