研究課題/領域番号 |
15K15569
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
平井 昂宏 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (00612798)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 吸入麻酔薬 / セボフルラン / フルオロウラシル |
研究実績の概要 |
急性骨髄性白血病などの難治性を示すがんはその存在が推測されている「がん幹細胞」によって治療困難性を高めているという仮説がある。具体的には「がん幹細胞」は他の増殖の盛んながん細胞と異なり、抗がん剤の作用する場である、細胞周期の分裂期やDNA合成期に移行せず休眠状した静止期に留まるため細胞死に至らず生存を続ける。その結果がんの再発の原因となり、高い難治性の原因の一つになっていると推測されている。 本研究は一部のがん細胞が吸入麻酔薬の暴露により一時的に細胞周期を早めることに着目し、細胞周期から外れ休眠状態となった難治性のがんに対して、吸入麻酔薬による細胞周期の活性化を促し抗がん剤の治療効率を高めることができるかどうかを検討する挑戦的課題である。 これまでに申請者らはセボフルラン暴露を受けた一部のヒトがん細胞株は吸入麻酔薬暴露の細胞増殖能を有意に高めることを見出した。さらにこれらの増殖が細胞周期の活性化によって生じたものかどうかを確認するためにBrdU取り込み後の免疫染色を行い、DNA合成期が増加することを確認した。またこうした吸入麻酔薬暴露後の増殖能の亢進は、免疫不全マウスの皮下においても再現することを確認した。 さらに申請者らは抗がん剤のうちDNAと結合してDNAの2重鎖切断を誘導しアポトーシスをもたらす白金製剤と、チミジン合成を阻害して代謝拮抗を行うフルオロウラシルを用いセボフルラン暴露の有無が細胞死数に変化を与えるかどうかを検討した。その結果予測に反してセボフルラン暴露後のがん細胞はこれらの抗がん剤に対する細胞死抵抗性を高めてしまうことを見出した。そこでこのような現象が他の麻酔薬暴露後に増殖を確認している細胞株にも生じるかどうかの検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の挑戦的課題に対してまず吸入麻酔薬のひとつであるセボフルランの暴露によって細胞周期を加速し、増殖を促すがん細胞を探索した。その結果申請者らは本年度までに、9種類の様々なヒトがん細胞株のうち2つの大腸がん細胞株、2つの肺がん細胞株、1つの乳がん細胞株で増殖効果を示すことを明らかにした。さらにこれらのセボフルラン暴露後の増殖効果は創傷治癒実験、ボイデンチャンバー実験、軟寒天培地を用いたフォーカス増殖能などを用いてその増殖能について繰り返し確認した。またそのうちの大腸がん細胞株についてはこの増殖効果が免疫不全マウスの皮下でも再現できることを見出した。 そこで吸入麻酔薬と抗がん剤との同時添加が有効な細胞死増加につながるかを確かめるため、これらの細胞株の一部に対して一般的な抗がん剤である白金製剤シスプラチンやフルオロウラシルを同時添加した。しかし予測に反し吸入麻酔薬は抗がん剤単独で添加するよりもむしろ細胞死を減少させてしまうことが明らかとなり、追加実験が必要となったため。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までに吸入麻酔薬暴露により増殖を促進するヒト大腸がん細胞株を、セボフルランと共に抗がん剤を添加して増殖実験を行ったところ、予測に反してセボフルラン暴露群が細胞死抵抗性を高めることとなった。そこでセボフルラン暴露によって増殖を加速するほかのがん細胞株で同様の実験を行い、増殖効果に影響を及ぼすかどうかを続けて精査する。 一方で使用した抗がん剤であるシスプラチンとフルオロウラシル以外の抗がん剤を試験しその増殖能の変化について検討を行うとともに、シスプラチンとフルオロウラシルなどほかの抗がん剤について添加時間を延長するなど条件検討を再度行う。 すでに申請者らはあるタンパク質阻害剤によりセボフルラン暴露後の増殖能を効果的に減じることを見出している。そこでこの阻害剤の作用機序に近い抗がん剤の探索も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 予測に反した結果が出たことにより、予定していた実験が行えなかったため。 (使用計画) 使用額については細胞培養に必要なプラスチック製消耗品などに使用する予定である。
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