研究課題
前立腺癌細胞におけるアンドロゲン作用の一つとしてp53の細胞内局在について新たな制御メカニズムの研究を行った。まず質量分析器を用いてアンドロゲン応答遺伝子であるG3BP2に結合するタンパク質を網羅的に同定した。同定されたタンパク質にはRNA結合タンパク質が多数濃縮しておりRNAの制御に関与する可能性が示唆された。過去の報告ではG3BP2はRNA結合部位を有しており過去の報告とも合致する。また興味深いことに我々はSUMO化を媒介する酵素を一つG3BP2結合タンパク質として同定した。この酵素によりp53をSUMO化することで核外へ輸送するシグナルとしていることを見出した。この知見をもとにLNCaP細胞において内在性のp53タンパク質がアンドロゲン依存的にSUMO化を受けることを見出した。G3BP2の発現低下はこのSUMO化反応を抑制することが観察され、p53を核外へ輸送することでp53シグナルを抑制していることが考えられた。また過剰発現系を用いた実験によりG3BP2とSUMO化酵素の共発現は相乗的にp53のSUMO化反応とそれによる核外輸送を促進することが見出された。またホルモン療法不応性の前立腺癌細胞を用いた移植実験においてG3BP2の発現低下は腫瘍増殖を抑制すること、それにより核内のp53のアセチル化の促進、下流シグナルの活性化を促していることが見出された。さらに臨床サンプルを用いた免疫組織学的な解析を追加し、これらの発見に合致する臨床的なデータも得ることができた。
2: おおむね順調に進展している
翻訳後修飾については細胞内局在を中心に解析を行いアンドロゲン応答遺伝子によるp53の局在について新たなシグナル経路を同定しており概ね順調に進行している。当プロジェクトは最終的な論文投稿の段階である。現在論文の審査中であり、追加実験を行う必要がある。
網羅的な結合タンパク質の同定の中でG3BP2と結合するE3 ligaseや脱ユビキチン化酵素を同定した。それらの中にはp53との結合が報告されているものも含まれており、G3BP2を中心とする複合体形成がp53の翻訳後修飾に大きな役割を果たしていることが考えられる。本研究ではその他のE3 ligaseについても前立腺癌の臨床サンプルを用いた解析を予定しており、G3BP2を介した新たな視点でのp53の翻訳後修飾や細胞周期、アポトーシスへの役割を同定することが今後の解析テーマとして考えている。
昨年度に予定していた実験計画の中でタンパク質レベルでの研究に主に時間を使うこととなった。次世代シークエンサーなどの解析に費やす予定であった費用などが節約することが可能となり、かつほかのプロジェクトと重なる実験も多かったため、予想以上に予算を節約することが可能であった。
現在論文を投稿中であり、本プロジェクトの終了には追加実験を要する。どの程度の予算の使用を要するかは今後の進展の程度による。動物実験の追加、タンパク質レベルでの解析のために抗体の追加購入、備品の購入などが必要と思われる。
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