本研究課題ではPKX欠損マウスが呈する周産期障害の解明を目的としているが、PKX欠損マウスは離乳前に大部分が死亡し、実験に十分な数を確保することが難しい。初年度は、安定してPKX欠損マウスを供給するための大規模な繁殖体制を整えつつ、PKXが関わるシグナル伝達経路の解明を中心に研究を進め、以下のような成果を得た。 ①PKXと相互作用するタンパク質の同定:HaloTag融合PKXを293T細胞に強制発現させたサンプルを用いたプルダウンアッセイと、それに続く質量分析の結果、1種類のPKX結合タンパク質の同定に成功した。 ②PKXの機能解析に有用なin vitro培養系の確立:マウスES細胞 (ES) からトロフォブラスト細胞 (TB) を分化誘導する培養系において、分化の進行に伴ってPKX発現も誘導される事実を見出した。さらに、PKX欠損ESから分化誘導したTBを野生型と比較したところ、形態変化や分化マーカーの発現は同等であったが、増殖に著しい亢進が認められた。この培養系は、PKX欠損マウスで観察される胎盤肥大を反映し得ると考えられるため、今後、増殖亢進メカニズムの解明を含め、in vitroでのPKX機能解析に応用していく予定である。 ③マイクロアレイ解析による周産期障害関連因子の探索:PKX欠損胎盤と野生型胎盤における遺伝子発現をマイクロアレイで比較したところ、予想に反してあまり大幅な変動は認められず、分娩異常や胎盤肥大に直接関連しそうな因子は見出せなかった。PKXがキナーゼ遺伝子であることから、今後はリン酸化タンパク質の発現比較を試みる予定である。一方で、新生仔貧血との関わりが示唆される遺伝子の発現変動が見出されたため、in vivo解析に進める候補因子として詳細な検討を開始した。
|