妊娠後期のマウス胎盤で高発現するPKXは生理的機能が未知であるが、申請者が独自に作製したPKX欠損マウスは、胎盤肥大や分娩不全、新生仔の貧血様症状や高い死亡率など、出産前後の母仔において複数の異常を呈し、新しい周産期障害モデルマウスとして期待された。本研究では、PKXの機能解析ならびに、PKX欠損がもたらす周産期障害の解明と克服を目的とした。 初年度は、PKXと相互作用するタンパク質の同定に成功し、PKXが関わるシグナル伝達経路の解明に向けた手がかりを得た。さらに、PKX欠損マウスで観察される胎盤肥大を反映し得る、機能解析に有用なin vitro培養細胞系の確立にも成功した。一方で、周産期障害関連因子の網羅的探索を目的として、マイクロアレイ解析によりPKX欠損胎盤と野生型胎盤における遺伝子発現の比較を行ったが、予想に反してあまり大幅な変動は認められず、胎盤肥大や分娩不全に直接関連しそうな因子は見出せなかった。 平成28年度は、初年度に確立した培養系を利用して、PKX欠損胎盤細胞の過増殖がAKTリン酸化の亢進により引き起こされる事を明らかにした。PKX欠損によりAKTリン酸化が亢進するメカニズムについて、既知のシグナル伝達因子に着目した解析を行ったが、未だ確定的な結果が得られておらず、今後も検討を継続していく予定である。当初計画していた周産期障害関連候補因子のin vivo機能解析については、初年度に実施したマイクロアレイ解析から十分な候補因子が得られなかったため中止し、新たに、PKX欠損胎盤と野生型胎盤におけるリン酸化タンパク質の発現比較を実施した。差のあるリン酸化タンパク質がいくつか得られており、詳細な解析に着手したところである。
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