研究課題/領域番号 |
15K15595
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤井 知行 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (40209010)
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研究分担者 |
永松 健 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (60463858)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 虚血性低酸素性脳障害 / 光拡散分光 |
研究実績の概要 |
低酸素性虚血性脳障害(HIE)は出生児の脳性麻痺の主要な原因因子である。分娩進行中の胎児の状態把握としては胎児心拍陣痛図による胎児心拍の経時的変動の評価が中心的な存在であるが評価者間のばらつきや判読には評価者の習熟度に大きく依存することや評価者間の判断のばらつきの大きさの面で問題がある。そのため、HIE発生を抑止する観点からは新たな胎児の生体情報モニタリング法の確立の必要性が高い。本研究では拡散分光計測技術に着目し、胎児の脳表から得られる光信号による新たなモニタリング法の開発を進めている。今年度は従来HIE発症モデルとして知られる新生児仔ラットを用いたプロトコールを応用して、そこから経時的に光データ計測を行う一連のシステムを確立した。具体的にはヒトの妊娠末期の胎児に相当する新生仔ラットに麻酔を行い片側の総頚動脈を結紮した。その後、低酸素環境に置くことで結紮側の脳にHIEを生じる過程において、頭蓋骨を介して光を照射して拡散反射光信号を計測した。脳の酸素供給状態や脳細胞構造の変化のそれぞれに特異的波長に着目して個別データを収集した。麻酔薬の濃度を一定に維持するために、当初予定していたよりも精度の高い酸素流量調節機器の購入が必要になり、麻酔関連機器については当初の予定を超えた購入費用となった。脳血流量や酸素供給に関連する光信号では脳組織のダメージを予知予測することは困難であった。一方で、散乱信号ではHIE発生に相関の強い光波長の検出に成功した。本研究の成果は日本レーザー医学会において発表し学会賞をいただいた。 今後、分娩進行中の胎児への使用を目指して、光データの定量化、経腟的挿入が可能なプローベの試作を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はHIEラットモデルを用いて拡散反射分光スペクトルシグナル計測を行うシステムを確立した。ヒト胎児に相当する新生仔ラットに対する麻酔法、計測プローブ、データ収集に適した脳表部位についてそれぞれ至適化を行い経時的連続性に再現性の高い計測値を得ることができるようになった。脳血流量、脳酸素化度、ミトコンドリア代謝、散乱のそれぞれに特異的な拡散反射光のデータの収集を行った。片側の総頚動脈を結紮した仔ラットとコントロール仔ラットの間での比較を行うことでHIE発症の予知、予測に有用な光信号の探索を行った。また、光信号HIEに伴う脳組織変化の特徴と光信号の相関について検討し、脳浮腫およびその後に生じるアポトーシスに関連する光シグナル波長の同定を進めることができたことから、研究の進行は順調である。
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今後の研究の推進方策 |
現在の計測システムでは、頭部の皮膚を切開して頭蓋骨に直接プローブを当てることで光シグナルデータの精度を高めているが、臨床応用を見据えた場合には頭皮越しに信頼性の高い光計測をできる工夫が必要と考えている。また、プローブを当てる部位を変えた場合のデータの変動の解釈や光シグナル値の定量化も臨床的使用の観点から重要であり、今後これらの課題を克服すべく検討を行う。その過程では既に臨床使用されている精神疾患の補助診断技術として確立している近赤外光スペクトロスコピー(near-infrared spectroscopy:NIRS)に使用されている技術が役立つと考えている。また、産科領域における使用を見据えて経腟的な使用に耐えうる耐防水性、衛生的なプローブカバーについても開発につながる基礎データを集積する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では低酸素性虚血性脳障害(HIE)の予知、予防に有用な生体情報モニタリングの開発を目指している。昨年度はHIEラットモデルの確立および拡散反射光信号の基礎データの収集を中心に進め、それに必要な研究費用の使用となった。一方でヒトへの応用のための光信号計測システムやプローベの開発を平行して進行しており、そのための機器の購入やプローベ試作の費用を予定していた。しかし、昨年度のラットモデルにおいて示された問題点として、光データの定量化や頭皮を介した計測の信頼性の向上を行った上でヒトへの応用を進めることが必要であることが分かってきた。そのために申請当初にヒトにおけるモニタリングシステム開発を目的として計上した費用については平成27年度中には使用せず、ラットモデルで確認された課題を解決した上で平成28年度での使用を予定している。
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次年度使用額の使用計画 |
ラットモデルを用いた実験をさらにサンプル数を増やす必要があるため、当初の予定よりも動物実験に使用する費用の増加(ラットの購入費、麻酔薬費用、脳組織の変化に関する分子生物学的検討のための試薬など)が見込まれる。また、ヒト胎児からの計測を行うための光学計測機器やソフトウェアについてはラットモデルでの十分な検討の後に購入を予定する。具体的には妊婦のベッドサイドへの持ち運びが可能な計測システムを構築するために、光源、分光器、光度計、光シグナル解析のためのPCの新規購入が必要になると考えている。
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