脳性麻痺の約15%が分娩進行中の低酸素性虚血性脳障害(hypoxic ischemic encephalopathy: HIE)が原因といわれている。現在、分娩の現場では、分娩時に胎児の心拍数変動と陣痛をリアルタイムに計測する胎児心拍陣痛図を用いることによって胎児の状態を把握し、鉗子分娩、吸引分娩、帝王切開術の急速墜娩の要否を判断している。しかし、出生後の神経学的所見と上記モニタリング結果との間に解離が見られることが指摘されている。本研究は、ラット新生仔を用いたHIE発症モデルを用いて、拡散反射分光法技術による脳循環代謝(脳血流量・脳酸素飽和度)のリアルタイムモニタリング技術の開発を行うことを目的とした。 拡散反射シグナルのスペクトラム分析において、脳血液量、組織酸素飽和度、散乱振幅について定量的にリアルタイムに解析を行った。低酸素暴露下での脳の組織ダメージに対して散乱振幅が最も鋭敏な変化を示した。一方で脳血流量や組織酸素飽和度の測定ではそれらの変化が生じた段階では不可逆な組織変化を生じており、一連の検討によりHIEの発症予知のためには散乱振幅をターゲットとしたモニタリングの重要性が明らかとなった。 また、散乱振幅は低酸素環境下の血管拡張による脳組織内の水分量の変化を反映しているという新たな知見を得ることができた。これらの成果により、拡散反射分光法モニタリングの中でも、散乱振幅はHIEの予知、予防のためのターゲットとなる計測パラメーターであることが分かった。本研究の成果はHIEの発生低減につながる新規の分娩モニタリング法の開発に寄与することが期待される。
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