研究課題
癌組織は「腫瘍内不均一性」を有し、癌細胞に加え、癌幹細胞、癌関連間質細胞など複数の種類の細胞により構成されている。この腫瘍内不均一性が癌組織の抗がん剤耐性獲得に寄与するが、これまで臨床症例における腫瘍内不均一性の客観的評価は困難であった。本研究では、腫瘍内不均一性を考慮し、癌組織臨床検体から癌幹細胞、癌細胞、間質細胞を抽出後に全エクソンシークエンス、コピー数解析を行うことで、各細胞を特徴付けるゲノム異常を同定し、再発腫瘍のゲノム異常と比較することにより、抗がん剤耐性メカニズムを解明することを目的とした。原発卵巣癌手術検体をスフェロイド培養用、Laser Capture Microdissection (LCM)用に分割し、スフェロイド培養用の癌組織に対し、独自のスフェロイド抽出方法を用いて卵巣がんスフェロイドの作成を試みている。スフェロイド用の培養条件下で、卵巣がんスフェロイド細胞の培養を実施し、スフェロイドの癌幹細胞としての表現型の確認を進めている。現在までに3症例の卵巣癌スフェロイド細胞の作成に成功している。LCM用検体は、OCTコンパウンドで包埋後液体窒素にて凍結後に、凍結組織標本を作成し、LCMシステムを用いて、癌細胞および間質細胞を切り出し、各試料から微量DNA抽出用キットを用いて、DNA抽出が可能であることを確認している。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は、臨床検体の層別化の確立を目指し、研究を実施している。原発卵巣癌手術検体をスフェロイド培養用、Laser Capture Microdissection (LCM)用に分割し、スフェロイド培養用の癌組織をcollagenase / hyaluronidaseにて酵素処理後、遠心分離法により卵巣癌細胞を分離し、最適化された培養条件下で、卵巣がんスフェロイド細胞の培養を実施し、3症例の卵巣癌スフェロイド細胞の作成が完了している。LCM 用検体は、OCT コンパウンドで包埋後液体窒素にて凍結している。凍結組織をクリオスタットで薄切し、100%メタノールで固定後、トルイジンブルー染色し、標本作製後、NIKON 社のArcturus LCM システムを用いて、癌細胞および間質細胞の切り出しを行っている。各試料から微量DNA抽出用キットを用いて、エクソームシークエンス実験に使用可能な品質のDNA抽出に成功している。また予備実験として、クローナルな細胞集団である卵巣癌細胞株(45種類)から得られたRNAシークエンスデータ解析を実施した。RNAシークエンスデータ解析のためにPipeline for RNA sequencing Data Analysis (PRADA)が動作することを確認し、卵巣癌細胞株における融合遺伝子の同定(246種類)を完了している。同定された融合遺伝子の多くは癌関連遺伝子であることが明らかになっており、これまで同定されている遺伝子変異リストに融合遺伝子プロファイルデータを統合することにより、卵巣癌細胞株の分子生物学的特徴付けを進めている。
平成28年度は、臨床検体の層別化を進めるとともに、全エクソンシークエンス実験及び解析の準備を行うこととする。Agilent 社SureSelect Human All Exon50Mb を用いて全エクソン濃縮を行い、ライブラリー作成後Illumina HiSeq2500シークエンス(100bp paired end)を行う。得られたFastq ファイルから全エクソンシークエンスデータ処理パイプラインを用いて体細胞性遺伝子変異を抽出する。さらに、MutSig (Lawrence et al. Nature 2103) を用いることにより、各細胞集団に特異的な遺伝子変異を決定する。各群の遺伝子変異プロファイルを比較検討することにより、各細胞集団に特異的な遺伝子変異を決定する。抽出されたゲノム異常のうち、遺伝子変異については、サンガー法によるシークエンスあるいはmiSeqを用いたターゲットシークエンスを行い、変異の有無を検証する。コピー数解析に関しては、Affymetrix 社 Genome-Wide Human SNP array 6.0 を用いてシグナルデータを取得する。Circular binary Segmentation (CBS) algorithm (Olshen et al. Bioinformatics 2011) を用いてコピー数変化を同定後、GISTIC2.0 (Mermel et al. Genome Biol 2011) で癌幹細胞/癌細胞に特徴的なコピー数異常を明らかにする。さらに、pyClone algorithm (Shah et al. Nature 2012) およびABSOLUTE algorithm (Carter et al. Nat Biotech 2012) を用いて体細胞性変異の細胞内頻度を推定する。
平成27年度は卵巣癌スフェロイド細胞の樹立及び臨床腫瘍組織検体の層別化を実施した。計画予定であった全エクソンシークエンス及びSNPアレイ実験を平成28年度に先送りにしたために研究費の余剰分が生じた。
平成28年度に予定している全エクソンシークエンス実験、SNPアレイ実験およびゲノム異常の抽出・検証に利用する。
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