研究課題/領域番号 |
15K15599
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
笹岡 利安 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 教授 (00272906)
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研究分担者 |
和田 努 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 講師 (00419334)
恒枝 宏史 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 准教授 (20332661)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エストロゲン / オレキシン / 糖代謝 / 脂質代謝 / 閉経 |
研究実績の概要 |
視床下部神経ペプチドのオレキシンは睡眠・覚醒を制御し、中枢での快・不快などの情動とエネルギー代謝の統合的な調節に関与する。閉経期のうつ・不安などの情動と糖代謝の異常はエストロゲンの中枢作用の低下に起因することから、エストロゲンとオレキシンの連係による情動と糖脂質代謝の包括的防御機構の解明を行った。雄性マウスでは高脂肪食摂取により体重の顕著な増加を認めるのに対し、雌性マウスでは体重増加が軽度であった。しかし、雌性のオレキシン欠損マウスは高脂肪食負荷により雄性と同様の著明な体重増加を認め、雌性でのエストロゲンのエネルギー代謝防御機構にオレキシンが関与することが示された。経口糖負荷試験とインスリン負荷試験において、高脂肪食摂取下での耐糖能とインスリン感受性の低下は、雌性では雄性の結果に比し軽度であったが、雌性ではオレキシン欠損によりエネルギー代謝は顕著に増悪した。そこで、雌性でのオレキシン欠損が肥満と耐糖能異常を惹起する機序を検討した結果、高脂肪食摂取下の雌性マウスでは、オレキシン欠損により皮下脂肪と内臓脂肪量が顕著に増加した。高脂肪食負荷をした雌性オレキシン欠損マウスの白色脂肪組織では、炎症性サイトカインTNFalphaの発現亢進に加えM1マクロファージの増加とM2マクロファージの減少を認めた。次に、卵巣摘出した雌性マウスは、高脂肪食負荷により著明な体重の増加と耐糖能異常を呈し、卵巣摘出したオレキシン欠損マウスは、これらの更なる増悪を示した。以上より、雌性マウスでは、オレキシンとエストロゲンは連携してエネルギー・糖代謝の恒常性維持に寄与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度科学研究費助成事業交付申請書において記載した平成27年度の研究実施計画に従い、本年度は(1)高脂肪食摂取下でのエネルギー・糖代謝の変化をマウス雌雄での性差とオレキシン欠損マウスを用いて検討した。その結果、マウスの体重増加と耐糖能異常は雌性マウスでは防御されたことから、女性ホルモンであるエストロゲンの重要性が示唆され、オレキシン欠損により生理的なエストロゲンの防御効果は消失する成績を得た。次に、(2)高脂肪食負荷と卵巣摘出した雌性マウスのエネルギー代謝表現型のオレキシン欠損による影響を検討した。高脂肪食と卵巣摘出により体重増加と耐糖能異常を呈するが、オレキシン欠損によりこれらの表現型は更に悪化したことから、雌性マウスでの耐糖能異常にオレキシンは深く関わることを明らかにした。以上より、エストロゲンとオレキシンの連係による代謝調節機構の存在が示唆されたことから、平成27年度に計画した研究実施計画をおおむね順調に遂行して研究を進展させることができた。本研究成果をもとに、女性閉経期における不安・うつなどの情動と代謝異常に対する新規治療法の開発に向けて更に研究を推進することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度にエストロゲンとオレキシンの連係による雌性の情動と糖脂質代謝の包括的防御機構の解明に向けて、オレキシン作用がエストロゲンの有無により糖脂質代謝に及ぼす影響の程度と機序の一端を解き明かすことができた。平成28年度は、エストロゲンとオレキシンの連係による糖脂質代謝に及ぼす影響の機序の解明をより推進する。代謝調節の点からは、中枢性のエストロゲン作用がオレキシンと関連してエネルギー糖代謝恒常性の維持に関わるメカニズムを、交感神経活性や慢性炎症の制御の視点から検証する。さらに、不安とうつに対する影響の解析を遂行する。オレキシンは、睡眠/覚醒および情動と中枢性エネルギー代謝を統合する視床下部ペプチドとして重要な働きを発揮するため、雌性のエストロゲン作用の有無によるオレキシン作用の変化とそのメカにズムを解明することは、女性閉経期のうつ・不安とエネルギー代謝障害の包括的解明に繋がると考えられる。従って、本概念に基づいた新たな治療戦略の開発を目指して、本研究の更なる推進に努める予定である。
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