研究課題
中枢性の糖・エネルギー代謝調節機構において視床下部オレキシン系の役割が重要であり、雌性ではオレキシン欠損の影響が増大することを見出した。そこで本研究では、雌性オレキシン欠損マウスを用いて代謝調節におけるエストロゲンとオレキシンの相互作用の機序とその意義を検証した。高脂肪食を負荷した場合、雄性オレキシン欠損マウスでは、重度の肥満、耐糖能異常およびインスリン抵抗性が認められ、さらに白色脂肪組織の慢性炎症関連遺伝子の発現が著明に増加した。しかし、雌性野生型マウスでは、雄性とは異なり、これらの代謝異常から防御されていた。したがって、雌性ではオレキシンが欠損したときのみ糖代謝の機能維持機構が破綻することが示された。次に、 高脂肪食負荷した卵巣摘出-野生型マウスは偽手術-野生型マウスと比較して体重増加および耐糖能の悪化を呈した。高脂肪食負荷した卵巣摘出-オレキシン欠損マウスはさらに過度の体重増加および耐糖能異常を呈した。このようにエストロゲンとオレキシン作用の消失は相乗的に糖代謝を悪化させた。さらに、 中枢性のエストロゲン作用の特性を明らかにするため、高脂肪食負荷した卵巣摘出-野生型マウスにエストロゲンを脳室内投与したところ、体重および脂肪重量の増加には影響は認められなかったが、耐糖能は改善した。しかし、高脂肪食負荷した卵巣摘出-オレキシン欠損マウスではエストロゲンによる耐糖能改善作用は消失した。したがって、少なくともエストロゲンの中枢性糖代謝改善作用はオレキシン依存的であることが示された。以上より、雌性マウスの糖・エネルギー恒常性はエストロゲンとオレキシンの両者によって維持することを示した。その機構として、両者は相乗的に肥満を防止したので、これらの機構は独立であり、一方、エストロゲンによる耐糖能の改善効果はオレキシン依存的であることが示唆された。
富山大学 大学院医学薬学研究部(薬学系) 病態制御薬理学研究室http://www.pha.u-toyama.ac.jp/clinphar/index-j.html
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