研究実績の概要 |
我々は陣痛が受精後正確に280日後に発来する機序を解明することを最終目標として、人体で受精後280日を正確に認識できる可能性のある細胞としてまず胎盤絨毛に着目した。また近年の研究から陣痛は子宮筋の炎症反応であることが示されているが、このことは受精後280日に子宮筋に炎症を引き起こす因子が陣痛の発来に重要である可能性を示している。加えて近年の研究で細胞の老化ではsenescence associated protein (SASP)と言われる一連のサイトカインが分泌されることがあきらになった。これらの背景から我々は陣痛の発来には胎盤絨毛の老化から分泌されるSASPが重要であると考え、まず胎盤絨毛細胞の老化を研究した。老化マーカーとしてβgal. p16, p21, PML、細胞増殖マーカーとしてMCM7を使用して、妊娠初期、中期、後期胎盤のsyncytial trophoblast (ST)、 cytotrophoblast (CT)の老化を検討した。その結果、絨毛細胞の維持に必要なCTでは妊娠初期から増殖マーカーの発現が亢進するとともに老化マーカーの発現も増加し、後期胎盤ではこれらのマーカーは陰性化した。一方STでは妊娠後期になって初めて老化マーカーの発現が増加した。またCT細胞由来絨毛癌BeWo細胞に細胞融合因子forskolinを添加したところ、CTのsyncytial fusionに相当する細胞融合現象が起こるとともに、老化マーカーの発現が亢進した。このことから、胎盤は妊娠初期から中期にかけて、まずCTが増殖してSTに融合して老化を呈するとともにSTの維持に重要な働きを示し、一方妊娠後期ではSTが老化を呈してその後の陣痛発来に関与する可能性が示された。これらの結果から我々は胎盤ではCTとST細胞が協調して胎盤の維持と老化に関与することを明らかにした。
|