研究課題/領域番号 |
15K15603
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
岩瀬 明 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院教授 (20362246)
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研究分担者 |
中村 智子 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (40732681)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 子宮内膜症 / 卵巣癌 / チョコレートのう胞 / 腹膜播種 |
研究実績の概要 |
手術時摘出検体から、腹膜中皮細胞および卵巣上皮細胞をコラゲナーゼ/トリプシン処理にて分離し初代培養を行った。初代培養細胞を用いてそれぞれのコンディションドメディウムを採取した。また同様に手術検体から正所性内膜細胞(上皮、間質)、チョコレート嚢胞由来子宮内膜症間質細胞を分離・培養した。 腹膜中皮細胞および卵巣上皮細胞由来コンディションドメディウムを各種濃度(0%:コントロール,10,20,50,100%)で添加し、正所性内膜上皮細胞、正所性内膜間質細胞、子宮内膜症間質細胞、卵巣癌セルラインに添加し増殖能を BrdU アッセイにて解析した。各細胞はいずれのコンディションドメディウム添加においても濃度依存的に増殖が促進される傾向をみとめたが、腹膜中皮由来コンディションドメディウムと卵巣上皮細胞由来コンディションドメディウム間の比較では有意差をみとめなかった。 正所性内膜上皮細胞、正所性内膜間質細胞、子宮内膜症間質細胞、卵巣癌セルラインの細胞外マトリックス(コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ヒアルロン酸)への接着能が、腹膜中皮細胞および卵巣上皮細胞由来コンディションドメディウム添加にてどのように変化するか検証した。コンディションドメディウム添加は増殖能評価と同様に行った。接着能の定量的評価は、蛍光ラベルした細胞が、上記マトリックスをコートした96well plate にどれだけ接着したかを蛍光マイクロプレートリーダーを用いて定量的に評価した。各細胞はいずれのコンディションドメディウム添加においても濃度依存的に接着が促進される傾向をみとめた。またコンディションドメディウム添加時には内膜症間質細胞においてのみ接着分子インテグリン依存性のMCP-1発現の増加をみとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
子宮内膜症、卵巣癌の共通の進展母地である腹膜中皮、卵巣上皮由来のコンディションドメディウムの添加でいずれの細胞も増殖、接着が亢進することを見出した。本実験系および結果は、本研究課題の根幹をなすものであり、今後の研究の継続性を保証するものである。一方、仮説であった内膜症および卵巣癌の周囲微小環境が、増殖能や接着能に影響を与える可能性は、これまでの実験結果からは示唆されていない。原因としては、生体内の複雑な微小環境の違いを、単一の細胞のコンディションドメディウム添加だけでは再現できていない可能性がある。この点については、動物実験の導入で克服できる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定の平成28年度の計画に従って、逆方向の腫瘍周囲微小環境と腫瘍細胞のインターアクションに関する実験を行う。具体的には月経血および正所性内膜細胞由来コンディションドメディウムによる卵巣上皮細胞、腹膜中皮細胞の形態変化と遺伝子発現解析 ・形態変化の解析(上皮間葉転換:EMT 評価)と遺伝子発現解析である。平成27年度の研究で、微小環境が腫瘍細胞の増殖、進展に関わっていることが示されており、双方向性のインターアクションと腫瘍進展制御についての議論が可能になる。 一方で、進展母地となる腫瘍周囲微小環境が進展様式を規定する仮設については、少なくともin vitroの実験では明らかにならなかった。この点については、再現可能な動物実験の系もしくはex vivoの系を検討する。 子宮内膜症細胞の接着依存性の炎症惹起の可能性が平成27年度の実験で示唆された。炎症は子宮内膜症の主要な病態であり、興味深い結果である。当初実験計画には無いが、子宮内膜症細胞接着誘導性の炎症が、子宮内膜症細胞の増殖や繊維化形成に影響を与えるかどうか、他細胞と比較しつつ検証を行う。
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