研究実績の概要 |
発声の多くは随意運動であるが、その音韻処理や運動企画、構音・調音に関する複雑な処理過程には、聴覚系のフィードバック機構が強く関与している。これまで、fMRI、PET、脳磁図などの脳機能画像を用いた研究により、発声時の聴覚フィードバック機構における聴覚野、上側頭回、縁上回、島などの関与が指摘されてきたが、発声前後にこれら複数の部位がどのように関連して活動しているかについては、不明な点も多い。 本研究では、音程調節発声における聴覚フィードバックの動的可視化を、脳磁図の時間―周波数解析を用いて検討した。具体的には、500 Hz, 707 Hz, 1000 Hz純音をreference toneとして用い、reference tone提示後(3種類のreference toneをランダムに提示)reference toneにあわせて/u/と発声する際の脳活動を200チャンネルの脳磁計(MEG vison PQA160C, ROCOH)で計測、計測後off-lineで磁場変化の時間―周波数解析を実施した。対象は、右利きで健康な正常成人8名(29歳-59歳)。 その結果、1. 発声に関係する脳活動は、主にα、β波領域の脳波の脱同期として観察されること、2. 発声動作に関連した脳活動(脳波の脱同期)は、発声の700-900ms前より、聴覚野、並びに弁蓋部に左半球優位(早期に活動開始が認められ、活動の持続も長い)に観察されること、3. 聴覚野と弁蓋部を比較すると弁蓋部の活動が強い傾向を認めること、などが示された。 今回の結果は、これまでfMRIなどで報告されてきた発声に伴う脳活動の動的可視化が、脳磁図の時間周波数解析を用いて評価できることを示すもので、今後は、吃音や機能性発声障害症例など、発声機構の病理が示唆される症例での検討が期待される。
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