研究課題/領域番号 |
15K15619
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
西崎 和則 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (90180603)
|
研究分担者 |
前田 幸英 岡山大学, 大学病院, 助教 (00423327)
高原 潤子 岡山大学, 医学部, 技術専門職員 (80448224)
折田 頼尚 岡山大学, 大学病院, 講師 (90362970)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | ニューロン再生 / GDF11 / プロラクチン / 鼻腔内投与 / 神経幹細胞 / 嗅覚 / 神経細胞移動経路 / 嗅球 |
研究実績の概要 |
自閉症改善を目指してオキシトシン点鼻剤による大規模臨床治験が2014年から開始され,脳組織への薬物投与ルートとして,鼻腔内投与が注目されている.しかしながら,オキシトシンの鼻腔内から脳内への薬剤の移行経路は未解明である.本研究では嗅球での新生神経細胞増加作用をもち,妊娠および授乳期の嗅覚増強に関与するプロラクチンおよびGDF11(growth differentiation factor)を用いて,鼻腔内薬剤投与による脳組織への移行経路を明らかにし,鼻腔内投与によって,神経幹細胞が存在する傍側脳室領域から新生ニューロンが嗅球まで移動する吻側神経細胞移動経路を逆向性に薬剤が浸潤する可能性の検証を行い,鼻腔内薬剤投与により神経幹細胞の賦活化による再生医療の可能性を検討する. その第一段階として,平成27年度においては,GDF11の至適濃度の決定とGDF11,プロラクチン(すでに至適濃度は決定済)の連続鼻腔内投与による脳組織における効果発現を免疫組織学的手法(DCX(神経前駆細胞),Ki67(細胞分裂のマーカー), GFAP(Glial fibrillary acidic protein),CD31(血管新生のマーカー))にて検討した.DCXおよびGFAPでは傍側脳室領域が,Ki67では傍側脳室領域から吻側神経細胞移動経路に沿った染色性が観察された.CD31(血管新生のマーカー)では傍側脳室領域から吻側移動経路に沿った染色性は観察されず歯状回付近に陽性細胞が観察された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
薬剤の鼻腔内投与による脳組織への移行経路として,血行性および血液脳関門の影響を受けにくい脳脊髄性,嗅神経を介する経路が考えられる.この経路を検証するに当たっての第一段階として,薬剤の鼻腔内投与による効果を脳組織において免疫組織学的に検討する必要がある. 本研究の最終目的としては,薬剤の鼻腔内投与によって,傍側脳室領域に存在する神経幹細胞を効率よく賦活化させ,新生ニューロンを増加させることが可能かを検証することにある. このため,平成27年度の研究としてはプロラクチンとGDF11を投与することにより傍側脳室領域から嗅球までの神経細胞移動経路の領域において,これらの薬剤の効果をDCX,GFAP,Ki67,CD31を用いて検討した.また, GDF11では効果発現の至適濃度を求めることとした. プロラクチンでは,我々の過去の研究で嗅上皮の嗅覚幹細胞で至適濃度とした250μg/ml,5日間連続鼻腔内投与でDCXおよびGFAPでは傍側脳室領域が,Ki67では傍側脳室領域から吻側移動経路に沿った染色性の増強を対照群と比較して観察した.GDF11では,40ng/ml,400ng/ml,4μg/mlの濃度を用い,同様の染色性を濃度依存性に観察した.薬剤投与の直接影響を受ける嗅上皮における対照群に比較した染色性の変化は,脳組織のそれより少なかった. 以上の結果より,平成27年度に予定したプロラクチン(250μg/ml)およびGDF11の5日間連続投与によって,傍側脳室領域に存在する神経幹細胞に薬剤が作用している可能性を示すことができた,また,GDF11の至適濃度を費用効果と確実性を考慮して400ng/mlすることを決定することができた.このため,平成28年度に予定している薬剤の鼻腔内投与による脳組織への移行経路についての解析が予定通りできると考えられる.これらの理由のため,本研究を「2.ほぼ当初の計画通りに進展している。」とした.
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究としては,プロラクチンおよびGDF11の鼻腔および脳内各領域での分布および濃度の解析を予定している. a) プロラクチンおよびGDF11の半定量的観察(免疫組織学的手法) 実験1)で用いた切片を利用して,それぞれ抗プロラクチン抗体および抗GDF抗体を用いて免疫染色を行い,プロラクチンおよびGDF11の嗅球から吻側移動経路に沿って傍側脳室領域および嗅覚投射路での分布を半定量的に観察する. b) プロラクチンおよびGDF11の定量的解析(免疫生化学的手法およびマスイメージング) プロラクチンおよびGDF11単回鼻腔内投与後の嗅粘膜から嗅球から組織内濃度を定量的に測定するために嗅粘膜,嗅球と傍側脳室領域およびその中間の脳組織,髄液,血液,高次嗅覚中枢の脳組織,嗅球と傍側脳室領域,嗅粘膜,嗅球と傍側脳室領域(眼窩前頭皮質)から組織を剖出する(n=4).各組織を磨砕して蛋白抽出した上清から,ELISA法(外注を予定)を用いて各組織中のプロラクチンおよびGDF11の濃度を定量的に解析し,統計的処理を行う. 質量分析装置により,嗅粘膜および嗅球と傍側脳室領域,吻側移動経路領域,嗅覚,傍側脳室領(眼窩前頭皮質)をCMCで凍結固定し,専用プレート上でプロラクチンおよびGDP11のマスイメージングを行って定量的に解析する(n=4).また,プロラクチンおよびGDF11の脳内濃度を比較し,鼻腔内投与の脳内移行に対する分子量の影響を評価する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度で予定した薬剤の至適濃度の決定が順調に進んだため,平成28年度に予定しているプロラクチンおよびGDF11の定量的解析の費用を十分に捻出するために平成27年度の使用額を節約した.
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に予定しているプロラクチンおよびGDF11の定量的解析の費用に使用する。
|