YAP、p-YAP、LATS1、p-MOB1に対する抗体を用いて、コラーゲンスポンジを移植したラット気管欠損領域上で再生過程にある上皮を免疫染色したところ、これらの分子の局在は上皮再生過程の初期、すなわち扁平化して遊走および増殖過程にある上皮細胞はHippoシグナル不活化状態であり、再生過程の後期に見られる分化進行中の上皮細胞ではHippoシグナル活性化状態であることを示唆していた。培養不死化気道上皮細胞株を用いた実験からはsiYapの導入やYAP阻害薬による処理が気道上皮細胞のHippoシグナルを活性化に近い状態へ誘導することが示唆されたため、再生過程の気管上皮にこれらの処理を行うことで気管上皮細胞の分化を促進できる可能性が考えられた。実際に、ラット気管欠損にコラーゲンスポンジを移植して1週目 (移植領域が概ね上皮により被覆される時期) に、気管内腔から再生過程の上皮へとsiYapの導入あるいはYAP阻害薬の投与を行い、さらに1週間経過後に上皮の分化を評価した。免疫染色により、YAP阻害薬投与群の上皮はコントロールと比較して多列線毛上皮に近い上皮構造を呈している様子が観察された。また、走査型電子顕微鏡観察の結果、YAP阻害薬処理群では比較的広範囲で線毛が観察され、形成されていた線毛も長く、成熟化が促進されていることが示唆された。siYapには明らかな上皮細胞分化促進作用は見られなかった。したがって、本年度の研究より、YAP阻害薬処理が再生過程の気管上皮の分化促進に有効であることが示唆された。
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