研究実績の概要 |
トラベクレクトミーは、眼内と眼表面に交通ができ血液房水関門が破綻する。非常に興味深いことに、両眼にトラベクレクトミーを行うと、後で行った眼の成績が有意に悪い結果が得られた。ぶどう膜炎や内眼手術歴のある緑内障眼では、術後成績が著しく不良であることを明らかにした我々の研究報告も含めて、免疫応答がトラベクレクトミーの予後に重要であると考えた。全国5つの大学病院で両眼にトラベクレクトミーをおこなった症例を対象に調査をおこなった。84例169眼の原発開放隅角緑内障もしくは落屑緑内障患者が組み入れ対象となった。先に手術をおこなった眼(先行眼)と後に手術をおこなった眼(後行眼)との術後成績を比較すると、基準A(5~21 mmHg)、基準B(5~18 mmHg)、基準C(5~15 mmHg)のいずれでも有意な差はみられなかった。しかし、先行眼で手術が成功した症例のみで、後行眼の成功率を解析すると、先行眼と後行眼との手術間隔が2ヶ月以上経った症例のほうが2ヶ月以内であった症例よりも成績が悪いことがわかった(基準A, 52.0% vs 83.6%, P = 0.0031; 基準B, 51.5% vs 80.4%, P = 0.026; 基準C, 51.1% vs 80.4%, P = 0.048)。多変量解析でも、より長い手術間隔がリスク因子として確認された(基準A, P=0.0055; 基準B, P=0.0023; 基準C, P=0.027)。しかし、先行眼で手術が不成功だった症例では、間隔が有意な因子として確認できなかった。先行眼にトラベクレクトミーで作成されたブレブによって血液房水関門が破綻し、その状態が長期化することで免疫が獲得され、後行眼のブレブ作成時に炎症反応が惹起され、後行眼の手術成績が不良になる作業仮説と一致した結果が得られた。
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