研究実績の概要 |
多細胞生物の発生・分化過程において、一つの受精卵から、卵割、細胞増殖・分化を繰り返しながら、個体が形作られる。個体を形成するすべての細胞のゲノムは基本的には不変であるが、ゲノムを構成するDNAやタンパク質にさまざまな修飾が加わることにより、個々の細胞タイプに特異的な遺伝子セットが発現し、細胞形質や機能が規定される。細胞の発生・分化や生理状態により、細胞核や核内ヘテロクロマチンの形態・分布が変化することが知られている。 杆体視細胞はヒトやサルの網膜では中心視野の黄斑部周辺にリング状に高密度に分布する。昼行性動物の杆体視細胞と夜行性動物の桿体視細胞とでは、核内構造が異なることが報告された。そこで本研究では、発生中のマウス網膜における桿体視細胞の核構造の変化を経時的に解析する目的で、2光子顕微鏡を用いた核内構造およびクロマチンのライブイメージング系の確立し、観察を行った。 まず核を可視化する目的で、核を標識する色素および蛍光タンパク質を検討した。色素にはDAPI, Hoechst33342, Vybrant DyeCycke Orangeを用いた。蛍光タンパク質を導入するために、桿体視細胞特異的なプロモーターであるNrl promoterあるいはrhodopsin promoterの制御下にtdTomato-H2Aあるいは H2B-GFPを発現させたレンチウイルスを作製した。これらを比較した結果、Hoechst33342が2光子顕微鏡下で830 nmにて核構造およびクロモセンターを最も綺麗に可視化することができた。前年度に確立したイメージングチャンバーを用いて、マウス網膜組織を2光子顕微鏡にて経時的に観察した。生後7日目のマウス網膜組織を単離し、核膜周辺にテロクロマチンが確認できた。核変形に伴いヘテロクロマチンが中心に集合し始め、発生と共にヘテロクロマチンが核内部、ユークロマチンが核膜周辺に位置するInvertedな構造へ移行した。
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