研究課題/領域番号 |
15K15640
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研究機関 | 国立研究開発法人国立成育医療研究センター |
研究代表者 |
東 範行 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 感覚器・形態外科部, 医長 (10159395)
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研究分担者 |
横井 匡 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 感覚器・形態外科部, 医師 (80514025)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 網膜神経節細胞 / 軸索 / iPS細胞 / ES細胞 / 細胞移植 |
研究実績の概要 |
視神経には、視神経炎や遺伝性障害、虚血、外傷などさまざまな疾患があり、重篤な視力障害を起こす。視神経は中枢神経に属するので、ひとたび障害され死滅すると、再生することはない。これまでに、マウスで視神経を挫滅させた後に生存した網膜神経節細胞の軸索が再度伸長した研究はあるが、視神経を再生する研究は行われていない。 我々は世界に先駆けてヒトiPS細胞、マウスiPS細胞、マウスES細胞から機能をもつ長い軸索を有する網膜神経節細胞の作製に成功した。ここれは移植可能な初めての網膜視神経細胞である。本研究では、これを用いて視神経障害モデル動物への移植実験を行い、視神経の再生医療の可能性を探求することを目的とする。 当該年度は、マウスES細胞由来の網膜神経節細胞を、マウスおよびラット網膜に移植した。成獣マウスおよびラットに対して、視神経を器械的挫滅し、あるいはN-methyl-D-aspartate (NMDA)を硝子体内投与して、網膜神経節細胞とその軸索(視神経)の障害モデルを作製した。その硝子体内にマウスES細胞由来の網膜神経節細胞を注入した。ドナー細胞はレシピエント網膜に生着し、その中に軸索を伸ばし、一部は視神経入口部まで達した。 網膜神経節細胞は中間中枢神経であるので、これを移植して失われた視覚を復元させることは非常に難しい。長期生存させるとともに、入力と出力のシナプスを適切に結合させることが最大の難点であるが、光覚や手動弁でも回復できれば意義は大きい。今回の結果は、視神経障害において網膜神経節細胞を移植して生着させることに成功し、視神経移植の可能性を示す第一歩となるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスES細胞由来の網膜神経節細胞を、マウスおよびラット網膜に移植した。成獣マウスおよびラットに対して、視神経を器械的挫滅し、あるいはN-methyl-D-aspartate (NMDA)を硝子体内投与して、網膜神経節細胞とその軸索(視神経)の障害モデルを作製した。その程度は、視神経を器械的挫滅の方が高度であった。硝子体内にマウスES細胞由来の網膜神経節細胞を注入した。ドナー細胞はレシピエント網膜に生着し、その中に軸索を伸ばし、一部は視神経入口部まで達した。ラットでは手術前後に免疫抑制剤を投与したが、マウスの方が生着は良かった。ことに、視神経挫滅を行ったもので、視神経入口部まで軸索が達した。 視神経障害において網膜神経節細胞を網膜内に移植して生着させることができたので、今後は網膜双極細胞やアマクリン細胞とのシナプス形成、視神経内へのさらなる軸索伸長が課題である。
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今後の研究の推進方策 |
iPS細胞由来の網膜神経節細胞の移植:網膜神経節細胞はES細胞だけでなく、iPS細胞からも作製できるので、当該年度と同様の方法で、マウスやラットの視神経障害モデルに移植実験を行う。 網膜内でのシナプス形成の検討:網膜双極細胞やアマクリン細胞とのシナプス形成について、免疫組織化学的、電子顕微鏡的に検討する。 軸索の伸長とpathfinding: cAMP等による網膜神経節細胞の活性化等によって、さらなる軸索の伸長を目指す。また、さまざまな誘導物質を用いて、視神経入口部から視交叉、外側膝状体へのpathfindingを検討する。 網膜神経節細胞は中間の中枢神経であるので、最終的には入力の網膜双極細胞やアマクリン細胞、出力の外側膝状体とシナプスを形成し、視覚の復元を視覚誘発電位で確認することを目標とする。
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