われわれはこれまで、線維芽細胞を非接着性培養皿で無血清培地による培養を行い、細胞凝集塊を形成させることで、毛包誘導能が消失した細胞や、本来毛包誘導能を有していない細胞が、毛包誘導能を回復ないし獲得するという現象を発見した。また、細胞が凝集塊を形成すると細胞が増殖しなくなり、かつ長期の生存が可能な細胞の冬眠という状態になり、さらにさまざまな幹細胞特異的に働いている膜表面マーカーや転写因子が著しく上昇することを発見した。さらに、線維芽細胞細胞凝集塊に分化誘導をかけると、神経、脂肪、骨、軟骨に分化することを確認した。これらのことから、線維芽細胞が細胞凝集塊を形成することで、in vitroで間葉系幹細胞に相当する状態に変化させることに成功した。本研究は、細胞凝集塊形成による未分化性の獲得のメカニズムをエピジェネティックスという側面から解明しようとした全く新たな取り組みであった。2次元培養と非接着培養皿による細胞凝集塊による変化は、細胞が周囲培養環境によりその性質を変化したことを示し、エピジェネティックな変化であると考えられる。このため、2者の細胞群のそれ以外の条件を厳密に合わせることで、網羅的解析によりDNAメチル化の領域を特定した。 本研究では、ヒト皮膚由来線維芽細胞を用いて、2次元培養および非接着培養による細胞凝集塊を行い、2者の接着・非接着以外の条件を限りなくあわせたうえで、2者のDNAメチル化の比較を、CpG Islandマイクロアレイを用いて、網羅的に検討した。さらに、メチル化された領域がどのような領域なのかを検討したうえで、未分化性獲得との関係が示唆されるアクチン重合の状態を変化させることで、未分化性の変化とメチル化の変化を検討を行った。
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