生体活動には多くの場合、概日リズムを認める。この概日リズムは視交叉上核で調整されており、時計遺伝子群が担っている。一方、時計遺伝子群は腎臓、肝臓、皮膚、末梢血単核球などの末梢組織でも同様の遺伝子群が末梢時計遺伝子として発現している。近年、時計遺伝子群は腫瘍、精神疾患、睡眠障害、循環器疾患、糖尿病、肥満などとの関連が指摘されている。重症患者では、睡眠障害を生じやすいなど概日リズムが崩れている可能性が示されている。また、重症患者では、せん妄を発症しやすく、せん妄と予後の悪化の関連性が報告されて、せん妄予防が大きな課題となっている。睡眠障害とせん妄の関連性が報告されており、せん妄の原因として概日リズムの障害つまり時計遺伝子群の影響が推測した。そして、時計遺伝子の中枢と末梢では時相が遅れる可能性、つまり中枢と末梢の不均衡が関与しいている可能性もある考え、本研究で検討を行うこととした。臨床研究と細胞実験を行った。臨床研究では、予定手術かつ術後集中治療室で48時間以上の加療を行う患者で時計遺伝子群とせん妄との関連を主要転帰とした前向き観察研究を行った。せん妄発症群と非発症群との間で末梢時計遺伝子群に有意な違いを認めなかったが、どの患者も概日リズムは崩れていた。また、重症患者では組織の低酸素状態をなりやすいため、低酸素の概日リズムへの影響を細胞実験で確認した。培養A456細胞を1時間低酸素として時計遺伝子群への影響を調査したが、有意な影響を認めなった。侵襲が大きいと末梢時計遺伝子群は影響を受けるが、せん妄の発症を末梢時計遺伝子群だけで予測することや介入の指標にするのには限界があると考えられた。ただし、中枢の時計遺伝子群の評価として用いる予定のメラトニン測定が途中などの残りの研究課題についても今後も検討を行っていく予定である。
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