動物の生体は様々な外界からの機械的刺激を受容して細胞内のシグナルに変換する細胞が存在している。口腔領域においては骨を形作る細胞や歯槽骨と歯の間に存在して緩衝作用を示す歯根膜細胞などが知られ、機械的刺激と細胞応答の関係が精力的に調べられてきている。しかしながらこれらの細胞は深く組織の中に埋没しているため、細胞の局所にかかる機械刺激の強度やそのシグナルがどのように細胞内、細胞間を伝わっていくのかは明らかとなっていない。本研究は光遺伝学を利用することにより組織に埋没している細胞に対して非接触的に機械刺激を加える方法の確立と細胞間のシグナル伝播機構の解明を目的とした。我々は光刺激の方法としてLOVドメインを用いたタンパク質間相互作用を用いた。これは青色の光を照射したときにだけ応答して二つのタンパク質が複合体を形成できるシステムである。一方のタンパク質をアクチンフィラメントに局在させて、もう一方のタンパク質をアクチンフィラメントを切断するタンパク質にすることにより、光照射をしたときにアクチンフィラメントが切断され、細胞に張力が発生することを期待するものである。アクチンへの局在化タンパク質やアクチンフィラメントの切断タンパク質の種類を変更した人工タンパク質を複数種類作成し、骨芽細胞株やHEK293細胞に発現をさせた。その結果、アクチンフィラメントへ局在化する人工タンパク質は骨芽細胞株では目的通りアクチンフィラメントに局在していることが明らかとなった。一方、アクチンフィラメントの切断人工タンパク質は細胞質全体に発現していることが明らかとなった。これら2種類の人工タンパク質を共発現させた細胞全体に青色の光照射を行った結果、細胞の一部で収縮が見られた。しかしながらその効力は低く、今後人工タンパク質の最適化を行う必要がある。
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