研究課題/領域番号 |
15K15687
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
井上 富雄 昭和大学, 歯学部, 教授 (70184760)
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研究分担者 |
中山 希世美 昭和大学, 歯学部, 助教 (00433798)
韓 仁陽 (清本聖文) 昭和大学, 歯学部, 助教 (00712556)
望月 文子 昭和大学, 歯学部, 助教 (10453648)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 舌筋 / 呼吸 / 動脈灌流標本 / ソムノペンチル / プロポフォール / デクスメデトジン |
研究実績の概要 |
舌根沈下に関与する中枢機構を解明するため、今年度は、除脳ラット灌流標本を用いて舌根沈下の実験モデルを開発するための実験を行った。 生後3-4週齢のWistarラットを用いて、イソフルレン麻酔下にて横隔膜直下で下半身を離断し、上丘の前端で除脳を行い、下行大動脈の断端からカテーテルを挿入し、送液ポンプを用いて人工脳脊髄液を灌流し、除脳ラット灌流標本を作製した。頸神経、舌下神経、反回神経の活動を横隔神経の活動と同時に記録し、麻酔薬であるソムノペンチルもしくはプロポフォールや鎮静薬であるデクスメデトミジンの灌流液中への投与による効果を調べた。ソムノペンチルおよびプロポフォールは、濃度依存性に吸息活動の振幅を減弱させ、呼吸頻度を低下させた。ソムノペンチル(50 μg/ml)、プロポフォール(40 μg/ml)の投与で呼吸は完全に消失した。このような麻酔薬による吸息活動の振幅の減弱は、舌下神経において、横隔神経よりも低濃度で起こっていた。一方、反回神経の活動の減弱は、他の神経に比べて起こりにくかった。デクスメデトジンは呼吸抑制を起こしにくいことが知られているが、20 μg/mlの投与で呼吸が完全に消失した。以上の結果から、麻酔薬や鎮静薬は呼吸抑制を起こすが、舌筋を支配する舌下神経の活動は、他の呼吸に関係する神経の活動よりも麻酔薬の影響を受けやすいことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、舌根沈下への麻酔薬の影響を調べるため、コントロールの状態で麻酔薬投与の必要がない除脳ラット灌流標本での実験モデルの開発が必須である。本年度は、まず、除脳ラット灌流標本で安定して呼吸を出し、頸神経、舌下神経、反回神経など複数の神経で呼吸性活動を記録することに成功した。ここで記録された呼吸性活動は、すでに報告されている除脳ラット灌流標本での呼吸性活動と類似しており、二酸化炭素濃度を上げた時の変化なども過去の報告と類似しているため、適切な呼吸状態の標本を得られていると思われる。 さらに、複数の麻酔薬や鎮静薬の呼吸に対する影響を調べ、舌筋を支配する舌下神経と他の呼吸に関連する神経とで、麻酔薬による影響が異なるという知見を得た。複数の麻酔薬が、舌下神経に対して、より低濃度で作用するという結果は、全身麻酔導入時の換気不能・挿管不能の原因を考える上で、重要な知見であると思われる。このように、舌根沈下のメカニズムを知る上で有用なモデルを得られたことから、本研究課題はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、平成27年度に確立した除脳ラット灌流標本での舌根沈下モデルを用い、舌根沈下に関わる中枢部位の検討を行う。超高感度タンパク質カルシウムセンサー(GCaMP)をアデノ随伴ウイルスベクターを用いて脳幹に遺伝子導入し、舌根沈下に伴って活動性を変化させるニューロンの存在部位を検索する。この方法で、舌根沈下の誘発時に活動が低下する脳部位が明らかになれば、その部位にGABAA受容体刺激薬のmuscimolを注入して同部位のニューロンの活動性を低下させ、舌下神経の活動低下が起こるかどうかを確かめる。また、同部の電気凝固による破壊でも同様の効果が観察されるかについても確かめる。これらの実験により、舌根沈下に関わる中枢を明らかにしていく。
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