平成28年度は、新たな骨浸潤モデルの確立とその解析を行った。骨浸潤を示す口腔がん細胞株であるSAS細胞にレンチウィルスを用いてZsGreen1を過剰発現させたSAS-ZSGreen1細胞を樹立した。ZsGreenの蛍光は、通常の組織染色処理条件で安定であることから、微小転移や骨浸潤を組織学的に可視化できる。マウス頭頂部を26G針でスクラッチした後、1000000個のがん細胞を50μlで摂種した。がん細胞を接種して3週間後にマイクロCT撮影を行い、がん細胞が骨浸潤していることを確認した。パラフィン切片を作製しTRAP染色を行った結果、骨浸潤領域には多数の破骨細胞が認められた。マウスを安楽死させた後、頭蓋部を液体窒素にて急速冷凍し骨浸潤サンプルとした。河本法によりマウス頭蓋骨の薄切切片を作製しLMDフィルムに張り付け、頭蓋骨に直接接触し骨浸潤しているがん細胞を骨浸潤がん細胞、頭蓋と反対側で皮膚へと浸潤しているがん細胞を非骨浸潤がん細胞として回収し、RNAを精製した。逆転写酵素によりcDNAを作製しリアルタイムPCR法にてがんの浸潤に関与する遺伝子の発現を比較検討した結果、骨浸潤がん細胞でMMP2およびMMP9の発現が増加していることが確認された。以上の結果より、本研究で樹立したSAS-ZsGreen細胞は、口腔がん細胞の骨浸潤メカニズムを探索するうえで、有用なツールとなり得ることが明らかとなった。今後は、このモデルマウスを用いて、骨浸潤の分子メカニズム解明、ならびにメカニズムに基づいた骨浸潤治療戦略の開発に貢献していく予定である。
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