前年度の結果を踏まえ、パラフォルムアルデヒドにより灌流固定したラット延髄に対して、理化学研究所により開発された組織透明化手法『ScaleS』を適用し、透明化延髄標本の作成を試みた。この方法は尿素とソルビトールを主成分とするScaleS試薬により組織透明化を図るものであり、その適用目的により『AbScale』『ChemScale』『ScaleSQ』などのバリエーションが存在する。今回は、三叉神経脊髄路核内におけるグリア細胞の三次元的観察を前提として、AbScaleによる透明化を試みた。透明化試薬の成分・配合は、Nature Neuroscience: doi:10.1038/nn.4107に従い調整し、AbScaleプロトコールに準じて処理を行った。その結果、Permeabilization(免疫染色の前)の工程までの段階で十分な透明化が得られず、温度や振盪など処理条件の見直しが必要であると思われた。しかしその一方、十分とは言えないものの一定の透明化には成功しており、数mmのスライス標本における蛍光抗体法を用いた観察には有効である可能性が示唆された。今回は11週齢雄性ラットを実験対象として用いたが、週齢による脳組織密度の相違や、硬膜・軟膜等の周囲組織除去の程度により透明化試薬の浸透性が変化する可能性がある。透明化処理の有効性を判断するには、様々な処理条件下での結果を比較検討する必要があると考えられた。
|