研究課題/領域番号 |
15K15728
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
東野 史裕 北海道大学, 歯学研究科(研究院), 准教授 (50301891)
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研究分担者 |
北村 哲也 北海道大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (00451451)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アデノウイルス / がん / 溶解 / ARE-mRNA / c-fos / TNF-α |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、腫瘍細胞では増殖可能で最終的には細胞を溶解し、正常細胞では増殖できない腫瘍溶解アデノウイルスを開発することである。AU-rich element (ARE)はがん遺伝子など主に細胞の増殖に関わる遺伝子のmRNAに存在するエレメントで、正常細胞ではARE-mRNAは合成後すぐに分解されるが、がん細胞では核外輸送され安定化し、細胞がん化に寄与する。本研究ではアデノウイルスの複製に最も重要なE1A遺伝子にAREを付与し、がん細胞特異的に複製できる全く新しいタイプのアデノウイルスを開発することを目的とする。 本年度は、まずE1A遺伝子の3’非翻訳領域に、c-fos もしくはTNF-α遺伝子のAREを挿入したアデノウイルス(Ad+AU)を作成した。次に、がん細胞に対するAdΔE4の増殖効率及び細胞死効果を検討した。HeLa、A549、MCF7、HSC3、Ca9.22等のがん細胞と、BJ、HGF等の正常細胞にAd+AUを感染させ、ウイルス粒子タンパクを染色することにより増殖ウイルス数を確定した。その結果、がん細胞の方が効率よくAd+AUが増殖した。また、同様の細胞を用いてAd+AUが増殖が誘導する細胞死の活性を検討した。その結果、がん細胞の方が正常細胞より効果的に細胞死が誘導された。 次に、現在中国で臨床応用されている腫瘍溶解アデノウイルスONYX-015とAd+AUとの腫瘍溶解効果を比較した。その結果、使用したがん細胞で、ONYX-015よりもAd+AUの方がウイルスの増殖効率が高く、また細胞死誘導活性もAd+AUの方が成績が良かった。従って、我々が開発しているAd+AUはONYX-015よりも有効な腫瘍溶解ウイルスであることが示唆できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、我々が作成した腫瘍溶解アデノウイルスのがんに対する効果を培養細胞を用いてin vitroで解析した。比較的悪性度の高いA549、HSC3やSAS細胞でウイルス増殖が増強され、また細胞死も促進された。また、悪性度が低いとされているMCF7やCa9.22細胞でもその増殖、細胞死効果が確認でき、予想以上にがんに対して効果があることが明らかになった。また腫瘍溶解ウイルスONYX-015と比較しても、Ad+AUの効果は同等かもしくは強く、Ad+AUが効果的あることが示せた。これらの研究は、当初の研究計画に即して行われ、ほぼその計画通りに結果が出せた。従って、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、腫瘍溶解アデノウイルスAd+AUの効果を動物を用いてin vivoで解析する。 1. ヌードマウスに移植したがんに対する効果:ヌードマウスの皮下にHeLa、HSC3などのがん細胞を移植し、できた腫瘍にAd+AUを投与することにより腫瘍溶解効果を検討する。時間経過とともに変化する腫瘍の大きさをグラフにし、コントロール(ウイルスが入っていないPBSを投与した群)と比較して、Ad+AUの腫瘍溶解効果を決定する。 2. シスプラチンとウイルスの併用効果:これまでに様々ながん細胞を用いて腫瘍溶解アデノウイルスとシスプラチンとの併用が検討されている。そこでシスプラチンとAd+AUとの併用を次の方法で検討する。がん細胞を用いて、Ad+AUとシスプラチンを投与し、腫瘍溶解効果が相乗的に活性化されるかin vitro、in vivo両方で検討する。次に、我々の研究室で共同研究者の北村がクローニングしたシスプラチン抵抗性がん細胞を用いて同様の検討を行う。さらに、抗がん剤が効かないとされておる、市販のがん幹細胞を用いて同様の検討を行い、Ad+AUがシスプラチンの効果を増強するか、もしくはAd+AU単独でも十分な腫瘍溶解効果があるか確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、Ad+AUの準備に予想以上に時間がかかった。ウイルス作成のためにコスミドを準備し、コスミドからウイルスゲノムDNAを切り出し、DNAを293細胞に導入しウイルスを作成するのだが、それぞれのステップで予想していなかったトラブルが発生した。また、増殖効率も予想以上に悪く、実験に使用する精製したAd+AUを十分に準備するに時間がかかった。以上のような理由で、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度は、Ad+AUの効果を判断するのに、あまり多くの細胞を用いる時間がなかったが、今後は、多くの種類のがん細胞を用いて、ウイルスの効果を検討する予定である。さらに、今年度予定している動物関連実験の資料を購入や、さらに、今年度の計画中のシスプラチン購入にも予算を用いる予定である。
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