【概要】骨延長術は骨格系組織の再生を可能にする治療法であるが、長期にわたる治療期間、創外固定装置による感染などの問題もある。これまでに骨延長術の治療期間の短縮を目的として骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)移植が検討されてきたが、移植細胞の生着率は低く、治療効果の多くがMSCに由来するパラクライン因子によるものと考えられている。MSC-CMのプロテオーム解析によって、「抗炎症性・組織再生型 M2 マクロファージ (Mac)を誘導する新規タンパク複合体」を同定した。この複合体はケモカインMCP-1と分泌型TypeIレクチンsSiglec-9で構成される。本申請研究では、整形外科や口腔外科領域で臨床的に用いられている、大型組織再建システム・骨延長術に新規M2Mac誘導複合体を局所投与し、治癒促進効果とそのメカニズムを明らかにする。 【研究成果】1. M2誘導2因子の骨再生能力評価に頭蓋骨欠損モデルを使用した。ラット頭蓋骨に直径5mmの円形欠損を形成した。これに2因子を含有したコラーゲンスポンジを単回留置した。治療後6週で骨形成の促進を確認した。組織染色と定量的PCR法を用いて、骨欠損部位の炎症環境が抗炎症環境に変化したことを確認した。2. 骨延長速度の加速モデルでは仮骨形成不全になる延長速度においても2因子を静脈内投与、あるいはコラーゲンと混和後延長部位に投与することで仮骨形成促進を確認した。3. 延長速度を2倍にすると延長部位に炎症反応が惹起された。しかしながら2因子投与後6時間で延長部位の炎症反応は消退し、M2細胞の出現を確認した。④M2細胞の培養上清は骨芽細胞の分化を促進し、破骨細胞分化を抑制した。さらに血管再生も促進した。 本研究によって、骨延長術の治療期間短縮、仮骨形成促進におけるM2Mac誘導複合体を局所投与の有用性が示唆された。
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