研究課題
近年、癌の浸潤・転移過程において、上皮間葉移行(Epithelial-Mesenchymal Transition: EMT)と呼ばれる現象が重要なステップであることが明らかとなってきている。しかし、実際の病理組織標本では明らかなEMTの組織像をみることは少ない。興味深いことに、口腔扁平上皮癌の亜型に紡錘細胞癌と呼ばれる明らかにEMTの性質を有する癌が存在する。我々は以前に紡錘細胞癌の細胞株を樹立しており、その細胞株が間葉様の性質と高い浸潤性を有することから、この腫瘍型では何らかの因子がEMTを強力に誘導していると考えられる。そこで、本研究では我々の有する紡錘細胞癌細胞株に対して、shRNA libraryを用いたゲノム規模の網羅的な遺伝子機能解析により、EMTを強力に誘導しているマスター遺伝子を探索し、EMTを標的とした口腔癌の新たな治療戦略の開発を目指す。平成27年度は当初の研究計画に基づき、スクリーニングのための紡錘細胞癌細胞株の改変を行った。E-cadherinの消失は最も一般的なEMTのマーカーとして用いられているため、紡錘細胞癌細胞株がshRNA導入によって上皮様の形質を獲得した際には逆にE-cadherinの発現は回復すると考えられる。そこで、細胞株のゲノム上のE-cadherin遺伝子の下流にGFPを挿入し、細胞株が上皮様形質を取り戻した際に、GFPを指標に細胞を分離可能に改変する。当初の計画に基づき、TALENを用いたゲノム編集技術によりGFPノックイン細胞の樹立を目指したが、E-cadherinの3prime領域を効率的に切断する酵素の作出を試みたが、困難であった。そこでCRISPRを用いたゲノム編集技術によりGFPノックインをこころみたところ、E-cadherinの3prime領域の切断には成功した。現在、引き続きターゲティングベクターの作成を行っている。
3: やや遅れている
年度当初の計画では、shRNA libraryによるスクリーニングまで終了する予定であったが、スクリーニングのための紡錘細胞癌細胞株の改変が予想以上に技術的に難しく、試行錯誤を繰り返したために、遅れが生じた。
引き続き、紡錘細胞癌細胞株の改変をCRISPRを用いて行う。それでも改変が困難な場合にはE-cadherinの遺伝子発現に重要なpromoter領域をヒトゲノムよりクローニングし、GFP遺伝子に連結することでレポーターベクターを作製する。レポーターベクターを紡錘細胞癌細胞株に遺伝子導入することで、E-cadherinが発現する細胞内環境になるとGFPタンパクが発現するように改変可能と考えられる。改変成功後には当初の研究計画通り、shRNA libraryによるスクリーニングを遂行する予定である。
当初の研究計画では平成27年度中にshRNA libraryによるスクリーニングを実施予定であったが、スクリーニング用の細胞の改変に時間を費やしたため、平成27年度はスクリーニングを実施しなかったため。
shRNA libraryによるスクリーニングの実施及び解析に使用する計画である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件)
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