研究実績の概要 |
ヒトゲノムの解読によりいわゆる遺伝子と呼ばれるタンパク質をコードする領域は全ゲノムの2%以下しか存在せず、トランスクリプトーム解析の結果では、ゲノム領域の約60%からは何らかのRNA が転写されていることが示された。またその大半は長鎖非コードRNA(long non-coding lncRNA, 以下lncRNA)であると考えられている。LncRNAの代表的な作用機序として、細胞質に局在してマイクロRNA(以下miRNA)に対するデコイとして機能する場合が知られている。そのようなlncRNAはmiRNAが結合する配列を有しており、lncRNA がmiRNAを消費することで本来の標的メッセンジャーRNAの翻訳抑制が解除されるという仕組みであり、遺伝子発現制御に関わるとされている。近年この概念が拡大され、competing endogenous RNA (ceRNA)というコンセプトが提唱された。まずThe Cancer Genome Atlas (TCGA)データベースに登録されている頭頸部がん530症例のlncRNAの発現を解析することにより非癌部に比べて癌部で優位に発現が高い14種類のlncRNAを同定した。これらのlncRNAの発現を口腔癌細胞株20株を用いて定量RT-PCR解析し、正常舌組織に対する発現比を検証した。その結果、高頻度にがん特異的な発現亢進を示す6種類のlncRNAを抽出した。次にsiRNAによる発現抑制が口腔癌細胞株の増殖能に与える影響を解析し、最も高い増殖抑制効果が得られるlncRNAとしてlnc-Aを同定した。さらにlnc-Aの阻害は、口腔癌細胞の遊走・浸潤能も顕著に抑制した。これらの結果より、lnc-Aは口腔癌において高頻度に活性化するがん遺伝子候補であることが示唆された。
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