研究実績の概要 |
末梢神経損傷後,免疫系細胞は神経損傷の刺激で増殖・活性化し,さまざまな神経栄養因子を分泌するとともに,末梢神経再生の調節に関与することが分かっている。神経栄養因子の一つであるglial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF) は,損傷末梢神経の形態学的な再生が促進されることが報告されているが,機能的な再生に関与するかどうかは不明である。 下歯槽神経切断モデルラットを用いて下歯槽神経支配領域への機械刺激に対する逃避反射閾値(MWRT)を経時的に解析し,感覚機能回復に対するGDNFの役割を検討した。下歯槽神経損傷後1日目から11日目まで有意に逃避反射閾値 (MWRT) の上昇が見られたが,この上昇は13日目に消失した。下歯槽神経切断部組織においてGDNF陽性リンパ球, 好中球およびマクロファージが観察されるとともに,下歯槽神経切断12時間後から14日目まで,GDNF mRNAおよびGDNFタンパク発現が有意に増加した。また,下歯槽神経切断後,切断部組織へのハイドロゲルを用いたGDNFの持続投与により,MWRTの回復が有意に促進された。さらに,三叉神経節細胞にGDNF receptor [GDNF family receptoralpha-1 (GFRalpha1)]が発現し, 神経切断部組織へのハイドロゲルを用いたGDNFとGFRalpha1中和抗体の同時持続投与により,下歯槽神経切断後のMWRTの回復が阻害された。下歯槽神経切断後5日目に, 2.5 μl FluoroGold (FG)逆行性トレーサーを顔面皮膚に注入した。以上の結果から,下歯槽神経損傷後の下歯槽神経支配領域の感覚機能回復に対して切断部組織へのGFRalpha1を介したGDNFのシグナルは促進的に作用することが示唆された。
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