研究課題
紫外線によりビタミン D が合成され、合成されたビタミン D が間葉系細胞による硬組織である骨形成に重要な働きがあるはよく知られているが、上皮系細胞の硬組織形成、つまりエナメルの石灰化への役割は不明な点も多い。今年度は、ビタミン欠損食で飼育したマウスの歯の発生をマイクロCTで解析した。その結果、予想に反しビタミン欠損食で飼育したマウス歯牙の石灰化度は、コントロールマウス群と比較して有意な差はなかった。しかしながら、細胞培養や歯胚の器官培養に於いては、ビタミンDがエナメル形成を有意に促進させた。生体と培養系での結果の差は、マウス全体のミネラルバランスによるもの、あるいは、元々夜行性であるマウスは、非常に弱い光でも十分な量のビタミンDを合成しうる可能性がある。また、歯原性上皮細胞にビタミンDを作用させるとTRPVチャネルファミリーの誘導が確認された。そこで、TRPVチャネルの阻害剤存在下で、ビタミンDによるエナメル芽細胞の石灰化を検討した。その結果、歯原性上皮細胞にビタミンDを添加し培養すると阻害剤の有無に関係なく、アメロブラスチンを発現するエナメル芽細胞に分化した。培養1週間後には、阻害剤を含まない培地で培養した歯原性上皮細胞はアリザリンレッド陽性の石灰化物を産生していた。一方、阻害剤を添加した培地で培養した歯原性上皮細胞のアリザリンレッド陽性度は、コントロールと比較し低下していた。つまり、ビタミンDによる歯原性上皮細胞の石灰化には、TRPVチャネルが生理活性を発揮する必要がある事が示唆された。また、本園度はビタミン欠損食で飼育したマウスの歯の切片を発生段階別に調整した。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要にも記載したが、予想に反しビタミン欠損食で飼育したマウス歯牙の石灰化度は、コントロールマウス群と比較して有意な差はなかった。この結果は、生体における内分泌代謝のフィードバック作用によるものやマウスという夜行性動物による影響なども考えられる。
歯原性上皮細胞や歯胚の器官培養の研究結果から、ビタミンDがエナメル芽細胞分化を促進させ、エナメルマトリックスの石灰化に必須であることがこれまでの研究で分かっている。石灰化物の産生量を見ると、培地中のCa濃度と相関しており、これらの細胞外カルシウムが石灰化にどのように影響しているかを検討する。歯の形成過程ではエナメルは、歯原性上皮細胞である中間層の細胞と接しているエナメル芽細胞によって分泌される基質が石灰化して形成される。この場合、エナメル形成に必要なカルシウムは、エナメル芽細胞から調達されているが、細胞内をどのような機構で移動しているのかは不明な点が多い。このカルシウムの移動を培養細胞、歯の器官培養系を用いてモニターし、ビタミンDによるカルシウム移動の変動について検討を行う。動物実験ではビタミン D を含まない飼料で飼育した群、ビタミン D を含 まない飼料 で飼育した妊娠マウスにサプリメントとしての活性型ビタミン D を投与した群、通常の飼料で飼 育した群、通常飼料にサプリメントとしての活性型ビタミン D を投与した群の臼歯、切歯の石灰化度をマイクロ CT、軟 X 線、組織切片で比較検討する。また、出生直後のマウスから、歯胚の mRNA を抽出し、エナメル基質蛋白群、calbindin-D28、Cyp24a1、Cyp27a1、Cyp27b1,Cyp2R1 の遺伝子発現をリアルタイム PCR で解析する。また出生直後のマウスの一部から歯胚切片を作成し、HE 染色にて組織学的に検討する。また、アルカリホスファターゼ染色、Alizarin Red 染色およびエナメル基質 蛋白群、calbindin-D28、Cyp24a1、Cyp27a1、Cyp27b1,Cyp2R1の抗体を用いた免疫組織染色を行い、 各蛋白の発現強度、組織内局在の変化などを観察し考察する。
本年度は国際学会の発表を予定していたが、時期的に大学業務と予定が重なってしまい、旅費の予算額を下回り、結果として繰り越しとなった。
本年度は、研究結果をまとめ国際学会に発表する予定である。また、夜行性であるマウスの実験に加え、夜行性でないやや大型の実験動物を用いて、低ビタミンD状態による永久歯エナメルの石灰化の検討も計画する。
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