研究課題
近年、Molar-Incisor-Hypomineralization(MIH)という疾患の報告が増えてきている。本研究は、ビタミンDがエナメル形成時の石灰化にどのような役割を演じているのかを明らかにし、低ビタミンDの妊婦・授乳婦の子どもの切歯と第一大臼歯のエナメル低石灰化症の発症リスクについて検討し、MIHの病態発症機構を解明することを目的とする。これまでの細胞レベルの研究成果により、ビタミンDがエナメル芽細胞分化を促進し、十分な量のカルシウムイオンの共存により、エナメル基質の石灰化が誘導されることが明らかとなった。本年度はラットのビタミンD欠損モデル系を作成し、エナメル形成にどのような影響を及ぼすか検討した。その結果、これまでの研究報告通り、ビタミンD欠損モデルラットの骨密度は、通常餌ラットの骨に比べて有意に減少していた。このことから、ビタミンD欠損モデルの系が機能していることが明らかとなった。エナメル質形成をマイクロCTを用いて解析すると、ビタミンD欠損モデルラットの歯牙の先端に摩耗が認められ、ビタミンD欠損モデルラットのエナメル質が形成不全になっていることが示唆された。一方で、エナメルの厚さを測定してみると、ビタミンD欠損モデルラットのエナメルの層が、通常餌を与えられたラットの歯牙のエナメル層よりも厚くなっていることが明らかとなった。この結果は、ビタミンD受容体欠損モデルマウスでも認められている表現型で、どのような機構でエナメル質の層が厚くなるのかを解明する必要があると考えられる。これらの結果から我々は、ビタミンDはエナメル芽細胞分化の初期と後期の成熟期において、異なった役割を演じているのではないかと推測し、来年度の研究を行っていくこととした。
2: おおむね順調に進展している
本年度はラットの系でビタミンD欠損餌モデルを作成し、マイクロCT解析を行った。エナメル質の石灰化度の低下などの表現型が認められた。ビタミンD欠損餌モデルラットの歯の発生中の切片を用い、カルシウムイオン輸送に関連するチャネルタンパク質の免疫染色を行い、通常食を与えたラットの歯胚と発現強度の違いを認めた。今後は、発現強度を定量的に評価していく。
マウスを用いた系で、ビタミンD欠損餌モデルを作成し、マイクロCT解析を行った場合、通常食を与えたラットと比較しほとんど差が認められなかった。しかしながら、ラットの場合、骨および歯に表現型を認めた。細胞培養に実験では、ビタミンD単独では石灰化が認められなかったが、カルシウムイオンを添加した石灰化培地を用いると、ビタミンDによりエナメル芽細胞基質の石灰化を認めた。今後は、ラットの系でビタミンD欠損餌に加え、ビタミンD欠損餌および低カルシウム餌を与えた系を比較し、カルシウムイオンとビタミンDの相互作用が及ぼす生体での歯の発生を解析する。同時に通常食マウスとこれら2つの系のマウスの血中ビタミンD濃度、カルシウムやリンイオン濃度について計測し検討することにする。
ラットの歯胚解析のためのサンプルが、年度末までに当初予定した数よりも少なくなったため、研究費を一部次年度に使用することとした。
昨年度調整ができなかったラットサンプルについて、本年度解析予定であるため、予算は計画通り執行されると考えられる。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Journal of Bone and Mineral Research
巻: 32(3) ページ: 601
10.1002/jbmr.3024
Intenational Journal of Oral Science
巻: 8(4) ページ: 205
10.1038/ijos.2016.35
Journal of periodontal research.
巻: 51(2) ページ: 164
10.1111/jre.12294