研究実績の概要 |
最近、非定型歯痛、舌痛症および顎関節症などの慢性疼痛患者は増加傾向にあり社会問題となっている。しかしながら、慢性疼痛に対する治療法は確立されておらず、診断および治療法の開発は急務であり責務である。2003年パスツール研究所の研究員により、ラット唾液からモルヒネの約3~6倍の鎮痛効果があるシアロルフィンが発見された(PNAS 2003, 100, 8549-58)。しかし、いまだこれら唾液由来の鎮痛物質が慢性疼痛にどのような効果をもたらすかについては明らかにされていない。また、上記論文では鎮痛効果の評価はラットの行動薬理学的評価であり、疼痛そのものを評価していない等の問題がある。シアロルフィンおよびオピオルフィンを臨床に応用するためには、鎮痛効果の判定(定量)が不可欠である。 H30年度は、2匹のマウスを、ステンレス製の仕切り板で2つに区切ったケージに1匹ずつ入れ単独飼育を行うことで、マウスにナワバリ意識を確立させた後、仕切り板を外して2匹の対面飼育を行う「社会心理ストレス」モデルを使用し実験を行った。顎顔面部(口ひげ部)の機械刺激に対する逃避反射閾値を計測したところ、対面飼育後に有意に閾値が低下した。そこで閾値が低下したDay 24にシアロルフィンのレセプターであるNeprilysinを免疫染色したところ三叉神経節ニューロンに発現はみられず、GFAP (satellite cellのマーカー)とIba 1 (macrophageのマーカー)との共存も見られなかった。一方で、形態学的にシュワン細胞にシアロルフィンのレセプター(Neprilysin)が存在する可能性あり、シュワン細胞から鎮痛作用のある物質が放出されるが示唆された。
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