本研究においては、宿主特異性が高いことで知られるバクテリオファージをプロバイオティクスとして利用することで、病原性菌特異的な除菌法を確立し、健全な口腔細菌叢にプロファイルを回復させる新規治療法の開発を目的としている。 平成27年度は、近年のメタゲノム研究によって歯周病原性細菌叢のディスバイオシスへの関連が強く示唆されているFilifactor alocisを主たる標的として研究を進めた。まず、F. alocisビルレントファージの単離を可能とすべく、同菌の長期連続培養に適する培地の至適化を検討した。同菌が一定の成長フェーズ(対数増殖期)を維持しつつ長期培養が可能となる培地の検討を完了した。平成28年度には、F. alocisからのファージ単離を試みたが、単離には至らなかった。 ファージの単離を試みる一方で、F. alocisが環境中にどのような代謝物質を放出することで細菌叢全体の歯周病原性を高めているのかについても、メタボローム解析を用いて詳細に検討した。F. alocisの培養上清のアミノ酸一斉解析を実施したところ、同菌が菌体外に放出しているアミノ酸はD-アミノ酸が4種、L-アミノ酸が10種存在することが明らかとなった。さらに、歯周病原性細菌叢において、F. alocisと同様に歯周病菌Porphyromonas gingivalisをサポートする歯周病関連菌と位置づけられているFusobacterium nucleatumについても同様の解析を実施したところ、細菌分類において近傍に位置するF. alocisとF. nucleatumとで異なるプロファイルを示したことから、歯周病原性細菌叢における両菌の異なる役割が示唆された。
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