我々はこれまで,健常人を対象とし,口腔内環境を改善することを目的に抗真菌薬であるアムホテリシンB(AMPH-B)を含有する含嗽薬を用い,口腔内の真菌量を減少させ,その有用性を検証してきた.本薬を長期間継続することにより口腔内真菌量を検出限界以下あるいは極めて低レベルに維持した結果,歯垢付着量の減少に伴い,慢性的な歯肉炎,起床時の口腔不快感などの口腔の不具合が改善することが示されていた.また,副次的な効果として便通の改善などの消化器症状のへの作用も認められた.そこで、介護老人保健施設と共同で要介護高齢者を対象に本薬を用いることで,口腔内環境や消化管症状について検証した.その結果,口腔環境の改善については,健常人と同様の効果が2ヶ月間で認められた.その主な効果は,口腔清掃と粘膜症状の改善であった.一方,口腔以外への効果について検証し,便通の改善と体重維持への効果が示唆されたが,評価方法などが最適化出来ず,今後の課題として残った.しかし,便通の改善は現場の介護士のみならず,理学療法士などからもAMPH-Bにより得られた効果として,施設側から認知症入所者での効果の再検証の提案がなされ,クロスオーバー法により再試験を実施した.この結果,低濃度のAMPH-Bの継続使用で,口腔内Candida量は確実に減少し,便通も改善傾向を示唆する結果が得られた.また,これまでAMPH-Bには抗真菌作用以外に,免疫系への作用が指摘されており,その作用も粘膜症状へ影響している可能性を考え,AMPH-B原薬とシロップ製剤の実際の使用濃度でTHR-1細胞への作用を確認した.この結果,製剤では原薬で得られる最大量の約20倍のTNF-αが産生されることが確認され,AMPH-Bについては抗真菌作用とまだ不明な点が多いが免疫的な作用により,効果を発揮していることが考えられた.
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