地球温暖化や世界的な航空輸送の発達に伴って、これまで日本での発症が見られない、または症例が少なかった熱帯感染症が温帯地域に拡大するという可能性は、感染症の専門家の間では長年の懸念であった。2013年に1940年代以来のデング熱患者の国内発生は、本邦に大きな衝撃を与え、その後もエボラ出血熱の世界的拡大、2015年の韓国でのMERS流行など、先の懸念は現実のものとなってきている。その一方で、症例が少ないこと、学生に感染症患者を担当させることがほぼないなどの理由から、本邦では熱帯感染症看護についての教育体制は十分とは言えない。そこで、熱帯感染症のケアプロトコールとその教材開発を目指し、フィリピン共和国で熱帯感染症ケアの方法を調査し、その体系化を試みた。 まず、調査対象とする13種類の感染症を提示し、先方と確認を行った上で、フィリピンで使用されているプロトコールを取得することができた。途中、研究のフィールドをマレーシアにも拡大し、両国を対象とし、現地しか手に入らない、看護学生が使用している教科書やマニュアルなども手に入れた。さらに、実際のケアの場面を観察し、感染症発生の動向について聞き取りを行った。 研究に当たっては、熱帯地方の医療者の協力が欠かせないため、フィリピン共和国の感染症看護のエキスパートや協力者を確保し、その研究協力の意思を確認しながら、着実に実施する必要があった。途中、政治的な変動や、協力者の人事異動などもあり、連絡がとりにくい状況が生じることがあったため、リスク回避として情報収集の幅を拡大するために、マレーシアの国立大学付属の看護専門学校の公衆衛生担当教員に協力を求めるなど、若干の方法の追加・修正を行った。
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