Mask-EdはKerry Reid-Searl 教授によって開発されたシミュレーション教育技法であり、シリコン製のマスクを装着して患者に扮した教員が、学生の反応に対応しながらシナリオを進めることに特徴がある。本研究ではこれを「マスク患者演習」として日本国内に初めて導入・開発し、その教育技法の効果を証明して、汎用性の高い効果的な看護基礎教育プログラムを作成することを目的とした。 まず、開発者が開催するワークショップに参加し、技法を修得するとともに、開発者から実施に関する許可を得て、マスクを制作した。開発者らの協力を得て技法の強化を行った後に、A大学看護学部3年生を対象として「胃全摘術後1日目の患者に対して、初めての離床を安全に実施する方法を学ぶ」ことを目的としたMask-Edによる演習を実施した。演習後にデブリーフィングを行い、その後にフォーカスグループインタビューを行って学習効果を評価した。その結果、「患者の外観」と「演習のシナリオ」という2つリアリティによって、学生は一般的な技術演習とは異なる臨場感や緊張感を覚えながら患者に自然体で接し、患者の反応に合わせて考えながら行動できていたことがわかった。また、こうしたリアリティの高い臨床体験によって、学生は臨床での実践に向けて自信を獲得するという学習効果を得ていたことも明らかとなった。さらに、シナリオについては、臨床で遭遇する場面を設定するだけでなく、よりリアルな患者を演じて演習を進行する教員の技量も求められることが示唆された。 開発者らが中心となって行われた海外の先行研究では、リアリティと教員のスキルの重要性がその特徴として報告されており、本研究でも同様の結果が得られた。これにより、本技法は日本でも同様の学習効果が期待できる教育技法であると結論付けた。
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