研究課題/領域番号 |
15K15807
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
内布 敦子 兵庫県立大学, 看護学部, 教授 (20232861)
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研究分担者 |
中野 宏恵 兵庫県立大学, 看護学部, 助教 (00632457)
永山 博美 兵庫県立大学, 看護学部, 助教 (20524953) [辞退]
川崎 優子 兵庫県立大学, 看護学部, 准教授 (30364045)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | コンサルテーション / エンパワーメント / 組織変革 / 改善 / 看護 |
研究実績の概要 |
看護師の自己効力感を高めることのできるコンサルテーション技術を抽出するために、看護学領域だけでなく広く組織管理、組織変革に関する書籍を検索し検討した。Scheinの組織文化を十分考慮した組織改革のあり方、リーダーシップの形態など医療看護の場面に共通する原理や原則を確認した。古くは、Lewinの場の理論、場を動かす社会力動など、組織を捉える枠組みを検討した。 さらにがん診療連携拠点病院をフィールドとして実際に、看護、特に病院看護師の特定の集団へのコンサルテーションを5件にわたり実施し、コンサルティの反応から看護師の自己効力感を高めることのできる介入を検討した。フィールドワークでは、①外表的変化を余儀なくされる頭頸部の癌切除術を受ける患者の不安のデータを有効に活用し看護の評価を行うこと、②骨髄幹細胞移植時の生ものの食事制限を安全に緩和する試み、③骨髄幹細胞移植看護ラダーの系統化、④外来化学療法拡充プランのビジョン形成、⑤看護の質評価のチームごと相違分析、である。データの数量化や理念の言語化など看護師が直面している問題をわかりやすくグラフにすることや、抽象化した言葉で表現することが看護師のエンパワーメントにつながり、5グループのうち1題は学会発表を行い、2題はシンポジウムでの発表を行った。発表の場は成果を具体化する重要な機会であり、看護師達の達成感は大きかった。 さらに、専門看護師、看護管理者に呼びかけ、医療情報管理の専門家から質改善に結びつく医療情報の活用法について学習し入力業務による圧迫で看護の質が低下しがちな現状を打開する方略を討論した。 今後、コンサルテーションモデルの構築や介入研究を行っていく計画であるが、勉強会の場でエキスパートパネルを形成するためのネットワークづくりや協力者の募集を行い、一定の成果を得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度は、文献検討とフィールドワークによって組織コンサルテーションに必要な技術を明らかにすることが目標であった。経営学、組織管理、コンサルテーション、エンパワーメント理論等に関する文献等から広く情報を収集し、看護師の自己効力感を高めるために用いられるコンサルテーション技術を抽出する取り組みを行った。 経営学領域の知見であるが看護師集団や病院組織にも非常に共通する原理が示されており、介入では、状況を明らかにするために問いかけること、組織文化を尊重することが重要視されている。病棟組織(病棟看護師集団)がコンサルティである場合、具体的にはどのような技術として表現できるのか、フィールドワークによって明らかにすることを目的に5つの看護師グループを対象に組織コンサルテーションを行った。看護師が直面している困難について問いかけ、できるだけ状況を明らかにし、それを構造化して見せること、患者の状態を数値化してわかりやすくすること、自分達が行いたい看護を言語化させそれを抽象化して見せることによって看護師達はエンパワーされ、それぞれが独自の活動を継続して行った。その結果、1つの学会発表、2つのシンポジウム発表を行い、発表を行った看護師グループはより達成感を持つことができた(発表は本研究の業績とはしない)。言語化、抽象化、数値化を支援することは組織コンサルテーションの技術として位置づけられる可能性がある。 筆者らがすでに開発している組織コンサルテーションモデルに文献やフィールドワークで得た知見を組み込み、暫定的コンサルテーションモデルを作成した。企画した勉強会の場でエキスパートパネルのために専門看護師、看護管理者、経営学専門家などのネットワーク形成を行い、フィールド提供をはじめとして参加者が研究協力を申し出てエキスパートパネルの準備を整えたが実施に至っていないため「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に行った文献検討、勉強会により得た知見に加えてフィールドワークによるコンサルテーション活動によってえられた技術(言語化、抽象化、数値化による現状の明示)を加味して、先行研究で提案されている組織コンサルテーションモデルをベースに暫定的なコンサルテーションモデルの原形が得られている。フィールドワークを継続し、実際のコンサルテーション活動の中からさらに効果的な技術を得ることができると推測される。エンパワーメント理論との整合性を検討しながらフィールドワークで抽出したコンサルテーション技術とさらに加えてモデルの精錬をはかる。 がん専門看護師、看護管理者、経営学専門家に協力を依頼し、エキスパートパネルを実施し、病院看護部組織、病棟看護師グループを対象とした組織コンサルテーションモデルおよび現実的な手順を整えていくことを考えている。この計画は、当初平成27年度に実施予定であったが、暫定的コンサルテーションモデルに精錬が必要と考えたため精錬作業を優先させ平成28年度の計画に組み込むことにした。 更に、当初の計画通り、2年目から3年目にかけて、コンサルテーションを必要とする病棟を研究対象として募集し、病院管理者、病棟のスタッフの承諾を得たのち、内布らが提唱する組織コンサルテーションの段階、すなわち、問題状況のヒアリング、問題状況の明確化、課題の共有といった段階を踏んで、開発したモデルに沿って介入を行いながら、自己効力感をはじめとした看護師の変化を調査することを計画している。 研究の進捗をサポートするために分担研究者を1名加え、さらに研究協力者としてコンサルテーションの実績を持つがん専門看護師を1名加える予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、文献検討等によりコンサルテーション技術を抽出する作業に時間をかけて取り組んだ。研究計画にはなかったがフィールドワークを加えて過去の事例というより現在の実臨床におけるコンサルテーション技術を抽出した。その中で医療情報を入力することに多くの時間を取られ、結果的に患者満足度を低下させているという実態があったことから、医療情報学、経営学の視点でコンサルテーションの示唆を得るため、講師を招聘して勉強会を開催するなど、コンサルテーション技術の内容を探索することに重点をおいたため、エキスパートパネルの実施に至らず次年度に繰り越した。エキスパートパネルに必要な会議費用および旅費、謝金等を次年度に使用する計画である。
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次年度使用額の使用計画 |
1)エキスパートパネルは短期間に効率よく行う必要から、小グループ頻回のセッションではなく一同に集合して行う形態に変更する。そのため会議場の賃貸料と集まってもらうための旅費が必要となり、前年度の残額を合わせて使用する。2)病棟へのコンサルテーション介入のために、病院交渉旅費、調査票の印刷、データ分析人件費、協力者謝品等が必要となるが3年目と合わせて行うため予定通りの支出となる。3)遠隔会議システムレンタル費用(遠隔コンサルテーション、研究会議のため)は当初のものより安価なものを検討し、エキスパートパネル費用を補完する。その他4)介入研究として実際にコンサルテーションを実施することから実績報告レベルの研究発表のため旅費等に使用する。 その他、必要に応じて看護学以外の専門的知識を必要とした場合は講師を招聘し知識提供、アドバイスを依頼する費用が生じる予定である。
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