本研究は、若年者に比べリスクの高い高齢者の離床に焦点を当て、最終的には術後の麻酔が自律神経活動と循環動態に与える影響を明らかにし、対象者の回復程度に応じた安全で、安楽な離床のための評価指標を得ることが目的である。術後「状態が安定している」と判断されると、ベッド上での体位変換に始まり、起座位、立位、歩行と速やかな早期離床が行われるが、若年者に比べ、呼吸、循環動態が変動しやすい高齢者の体位変換を含めた離床時のアセスメントは極めて重要である。そこで、われわれは、呼吸、循環器疾患の明らかな既往がなく、自律神経活動に影響を及ぼす可能性のある薬剤を服用していない高齢者を対象に、心電図から心拍変動解析を行い、ベッド上での体位変換時の循環動態と自律神経活動を評価した。対象は 平均年齢73歳の高齢女性27名と平均年齢76歳の18 名の男性高齢者である。仰臥位での安静後、無作為に10分間の左右側臥位を行い、体位変換における循環動態と自律神経活動を測定した。性別に関わらず、仰臥位から左側臥位で心拍数の減少を認めた。自律神経活動は、男性高齢者のみに右側臥位時の交感神経活動が低値を示し、女性高齢者には左右側臥位に有意な変化は認められなかった。これらの結果は、男性高齢者は右側臥位時、交感神経活動が増加することを弱める働きがあることを示すものかもしれない。これまで、高齢者が夜間睡眠時に右側臥位を取る時間が長い、あるいはうっ血性心不全患者がベッド上で右測臥位の割合が高いとの報告があり、われわれの結果はこれらの結果を支持できる可能性があり、高齢者の体位変換の選択に重要な示唆を与えるものと考えられる。
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