本研究は、中小企業労働者の現場において、職場文化の観察により、量的研究では解明できない健康影響要因を探り出すものである。本年度は介入を進め、市の健康事業参加を推進したことにより、健康意識向上に加え、市民との一体感醸成も図られた。 3事業場の協力を得て、それぞれの職場診断とアンケートを基に、インタビュー、衛生委員会や朝礼における参与観察、職場改善アクション会議の実施によるデータ収集を4年間行った。個別的特徴は徐々に見えるようになり、対象へ長期間かけて関わることと、複数研究者の感じる主観を議論することの重要性が示唆された。 1事業場においては、所属市の健康事業や、市内マラソン大会等を利用することで、職場の健康文化の変化をもたらすことができた。特に、地域在住高齢者の体力測定事業には、多くの従業員が参加し、このデータによる「大腿四頭筋の最大筋力に達する速度(RTD)と転倒歴の関係」を解明した研究成果にも結びついた。また市民公開講座を開催し当該事業場従業員の参加を呼び掛け、これらの研究成果を含めた講演により、健康意識向上に加え市民との一体感の醸成も図られた。事業場と地域の連携は、従業員の意識向上に寄与するばかりでなく、地域共生社会の視点からも重要であるという気付きも得られた。 平成30年5月の「第三回日中高齢化社会政策と産業化シンポジウム」の招聘講演では、日本の介護産業の現状および職場文化について講演し、また中国の健康課題と、健康関連産業についての知見も得た。 本研究の介入は各事業場の都合に配慮して進めていく必要があり、対象3事業場の進行度はまちまちであったため研究期間を1年間延長したが、1事業場においては、さらに引き続き協力の意向を示してくれたため、今後もデータの収集を続けることとした。運動器系の論文および学会発表は進んだが、職場文化に関する論文は現在作成段階である。
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