研究課題/領域番号 |
15K15935
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
松田 哲直 東京工業大学, 工学院, 助教 (00638984)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | データ圧縮 / 有限長 / 情報源符号化 / 情報理論 |
研究実績の概要 |
データ圧縮の理論研究を行う情報理論では、データ長が無限大に漸近する場合における、漸近的な圧縮率の理論限界を解析することが多い。しかしながら、現実的にはデータ長が有限の場合の解析を行うことが重要である。本研究ではこの有限長解析において、圧縮率の理論限界に対する精度の高い上界と下界を閉じた式で与えることを目的とし、平成30年度は以下の成果を挙げた。 1. 与えられたデータを複数の符号器それぞれにおいて異なる圧縮率で圧縮し、複数の復号器それぞれにおいて異なる歪みの許容値に基づいて圧縮データを元データに戻す場合のデータ圧縮に関する成果が、IEICEの英文論文誌に載録された。この論文では、データの定常性や無記憶性を仮定しなくても成り立つ、圧縮率の理論限界の領域に対する極めて一般的な内界と外界を新たに与えた。また、ある種の情報源については、データ長が無限大に漸近する場合における圧縮率の理論限界の領域が、これらの内界と外界から得られることを明らかにした。 2. 相関を有する複数の情報源から生起したデータをそれぞれ分散して独立に圧縮し、すべての圧縮データを参照して一つのデータのみを元に戻す場合のデータ圧縮について検討した。このデータ圧縮に対して、圧縮率の理論限界の領域に対する新たな内界の導出方法を開発した。また、データ長が無限大に漸近する場合には、得られた内界と圧縮率の理論限界の領域とが一致することを明らかにした。これらの成果を国際会議(ISITA2018)において発表した。 3. 有歪みデータ圧縮における圧縮率の理論限界が、Kolmogorovが導入したepsilon-entropyと呼ばれる量を用いて表せることを新たに示した。また、この成果を国内会議(SITA2018)において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要において述べた1と2の成果は、平成30年度に予定していた分散データ圧縮に関連する成果であり、当初の計画の一部は達成できたと言える。ただし、分散データ圧縮とは、相関を有する複数の情報源から生起したデータをそれぞれ分散して独立に圧縮し、すべての圧縮データを同時に元のデータに戻すデータ圧縮のことである。他方、これまでの成果は固定長データ圧縮に関連する成果であり、可変長データ圧縮に関連する成果が不足している状況である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続き、分散データ圧縮と可変長データ圧縮に関して、圧縮率の理論限界に対する精度の高い上界と下界を閉じた式で与えられないかを検討する。また、研究実績の概要で述べた2の成果において、圧縮率の理論限界の領域に対する新たな内界の導出方法が得られているが、これを発展させることで本研究課題の目的の一つであるユニバーサルデータ圧縮の開発を、以前よりも簡便な手法で行える可能性がある。今後はこれが可能かについても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたほど旅費が高額にならなかったことが、次年度使用が生じた原因である。次年度では、今後の研究の推進方策にもとづく研究を円滑に遂行するために、関連研究の調査や会議発表などを行う。このための費用として次年度使用を利用する予定である。
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