相互に通信しながら協調動作を行う多数の計算主体から成るシステムを分散システムと呼ぶ.本研究では,環境変化や計算機故障が発生しても,分散システムがそれらに追従して自身の機能を最適に保つ,自己最適化能力を持つ分散システムの実現を目指す.特に,分散協調と自己最適化の限界や性能の背景となる数理構造の発見,個々の計算主体における局所的な最適化とシステム全体の大域的な最適化の関係の解明を目標とする. 平成29年度の主要な研究成果は以下の2点である.(i)局所的な最適化としてゲーム理論に着目し,各プレイヤーが接続辺の追加削除によってネットワーク構造を変更するネットワーク構成ゲームのうち,特に辺交換ゲームに分散環境下での局所性(観測可能な戦略の限定)を導入し,局所性の程度が均衡における大域的なコストに与える影響を示した.(ii)匿名なモバイル計算主体群による形状(パターン)形成に関して,計算主体群がもつ対称性が支配的であることを示した.一連の結果により,対称性が複数のモバイル計算主体群モデルに共通して本質的であることを示した.さらに,モバイル計算主体の位置同定問題と計算可能性の関係を示した. 研究期間全体を通じて,多様なモデル,問題に取り組み,分散協調と自己最適化に本質的な数理構造を多数発見した.主要な結果3点を挙げる.集中型システムとの比較により,モバイルエージェント群が最適な台数でネットワークを探索できることを示した.ゲーム理論の応用により,辺交換ゲームにおける視界の範囲と均衡での性能の関係を示した.群論に基づく対称性の議論により,モバイルロボット群をはじめとするモバイル計算主体群の協調能力が対称性によって決まることを示した.これらの手法や数理構造は関連分野では既知のものであったが,本研究により局所性・非同期性・並列性をもつ分散環境への適用が可能であることが判明した.
|