研究課題/領域番号 |
15K15944
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
小市 俊悟 南山大学, 理工学部, 准教授 (50513602)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 離散最適化 / グラフアルゴリズム / 分子構造推定 / データベース |
研究実績の概要 |
当初の計画では,2015年度は全体構造を構築する際に重ねていく部分構造の順序に関する問題に取り組むこと,すなわち,その順序の効率的な生成手法を開発することを予定していたが,それを変更し,主に2016年度に取り組む予定であった対称性の高い分子構造の推定手法の開発に取り組んだ.その理由は,それらの手法を最終目的物である「分子構造の推定法」を構成する手法(モジュール)としてみたとき,順序の効率的な生成手法がより前提となる手法であり,それを決めてしまうことは,対称性の高い分子構造の推定手法に制限を加えることにもなり得ると考え,対称性の高い分子構造の推定手法に先に取り組み,その原型だけでも開発することが,対称性の取り扱いまで考慮した「順序の効率的な生成手法」の開発につながると判断したからである.結果として,2015年度は,対称性の高い分子構造の推定手法について成果を得た.その成果を日本コンピュータ化学会2015秋季年会において発表し,また,速報(Letter)としてまとめたものが Journal of Computer Chemistry, Japanに掲載されるに至った.開発した手法は,当初の計画通り効率的な離散最適化手法(グラフアルゴリズム)の一つである「グラフ推定問題に対する手法」を応用したものである.効率的な離散最適化手法を応用したことで,対称性の高い構造に対しても高速な構造推定が可能であり,本研究の目的を果たす一つの成果が得られたと考える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように,当初の計画を変更し,主に2016年度に取り組むことを計画していた問題に2015年度は取り組んだが,その問題に対して成果が得られ,その成果を既に学会や,速報としてではあるが雑誌において発表していることから研究期間全体で見た場合には,おおむね順調に進展していると判断してよいと考える.ただし,取り組んだ問題について,当初の計画では,グラフ推定問題に対する手法を応用することで,対称性を陽に取り扱わないことで計算の負担を軽減することを想定していたが,一部の入力例については,対称性に関する情報が不可欠であるとわかったので,対称性を判定するための手法を取り込むことになった.しかし,そのような手法は,以前に開発をしたことがあったので,比較的容易に実現可能であった.結果として,当初想定していたよりもやや複雑な計算を要することとなったが,実用性に照らして,十分に高速な手法が開発できたので,この点においても順調な進展と言えよう.また,以前から結果を評価してもらっている有機合成の研究者にも結果を見せたところ,新たに開発した手法の有効性を確認してもらえたので,この点からも順調な進展と評価してよいであろう.研究が進展したことで,各種計算に用いるパラメータの設定がより複雑になり,それらをユーザにわかりやすく(利用しやすく)しなければならないなどの新たな課題も生じたが,残りの研究期間において,これらの問題にも取り組む予定である.
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今後の研究の推進方策 |
2016年度は,主に2015年度に取り組む予定であった問題,すなわち,全体構造を構築するために重ねていく部分構造の順序の効率的な生成手法の開発に取り組む.まずは,計画通り,効率的な離散最適化手法が存在する最小木問題を利用することを中心に考え,効率的な方法を考案・実装し,評価したいと考えている.2015年度の成果である対称性の高い分子構造の推定手法については,速報として既に雑誌に掲載されたが,詳細を論文(Full paper)としてまとめたい.また,研究計画に挙げたデータベースのインデクシングの問題についても当初の計画通り取り組みを開始する.データベースの設計は,分子構造の推定に用いる手法の設計及び効率性にも影響するので重要な課題である.実用性に重点を置いた設計を検討したい.研究計画にも挙げているが,近年のCPUのマルチコア化を踏まえると,並列化することで効率化を図ることができる部分については積極的に並列化を進めることが実用性の観点からは重要と思われるので,それらにも取り組む予定である.新たな課題として,手法の開発が進むにつれて,ユーザが設定しなければならないパラメータが増えたが,それらの設定はユーザにとって必ずしもわかりやすいものとは限らないことが挙げられる.ユーザが設定するパラメータは必要最低限にして,その他は自動で調整できるような仕組みを手法の中に組み込むことが必要であろう.機械学習の手法なども参考にして,これらの解決策を考案したいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年度の使用額が当初の計画より少なかったのは,主に物品購入に充てる費用が少なかったからである.これは,2015年度に入ってから,2016年度から海外で研究をする機会が得られる見通しが立ったために,滞在先で十分な研究環境を整えることができるように,2015年度は,物品の購入を控えたからである.取り組む課題を変更したこともあり,既にある計算機環境でほぼ支障なく研究を遂行できたことも一つの要因である.
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次年度使用額の使用計画 |
2015年度に使用しなかった分については,2016年度において,海外滞在先での研究環境を整えるために使用するとともに,本研究課題について,当初の計画よりエフォートを大きくして取り組むことが可能になったので,研究成果の発表等のための旅費などとして有効に活用する予定である.
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