本研究課題では,新規化合物を対象とした核磁気共鳴(NMR)分析で得られるNMRスペクトルから,その新規化合物の構造を,構造とNMRスペクトルが既知の化合物データベースを利用して,計算機により自動で推定する方法の確立を目指して,その実現に際して生じる様々な問題の解決を図ってきた.はじめに,推定される構造が高い対称性を持つ場合の推定法の確立に取り組んだ.入力NMRスペクトルの対称性と矛盾しない推定構造を出力しなければならないが,2015年度にこの問題に取り組み,グラフ推定問題の効率的な離散最適化解法を応用して,推定法の適用範囲を高い対称性を持つ構造にまで広げることに成功した.その成果は,雑誌論文としてまとめ公表した.2016年度は主に,推定構造のパーツとなる部分構造について,それらを推定構造として重ねていく際に必要となる順番の生成に取り組んだ.すべての順番を生成するのでは,部分構造が少し増えるだけでもその個数が莫大な数になり処理できない.この課題には2017年度まで取り組み,再び離散最適化手法を応用して,必要な順番を網羅しながらも生成数の削減に成功した.また,NMR分析法の進歩により,分析対象の構造に関して,原子の結合関係についても一部情報が得られるようになったことを踏まえ,2017年度にかけて,そのような情報を利用した推定法の実装も進めた.データベース中の化合物は結合情報を持つので,それを入力の結合情報と照合することで,推定構造の選別に用いる.これにより,推定精度の向上が期待できる.2016年度以降の成果は,実装を第一に進めてきたので,まだ論文として公表していないが,今後,公表を目指す.その他,研究発表については,これまでに開発した推定法によって構造訂正に関する成果が得られたので,それらを発表した.これらはこれまでに実装してきた推定法の有効性を示すものと考える.
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