研究実績の概要 |
#P-困難と呼ばれるクラスに属する難問3つについて,完全多項式時間近似スキーム(Fully Polynomial Time Approximation Scheme,FPTAS)という種類の近似アルゴリズムを提案した. 一つ目は複数の制約式を持つn次元ナップサック多面体の体積に対する近似アルゴリズムである.この問題は研究期間以前から研究を続けていたものである.n次元ナップサック多面体はn次元ハイパーキューブを一つ或いは複数の超平面で切り取って残る多面体であって,その体積の計算は#P-困難であった.この問題に対し,畳み込み積分の階段近似に基づいた近似アルゴリズムを示し,超平面を定義する制約式の数が定数で抑えられる場合にはFPTASであることを示した.この成果は論文誌Algorithmicaに掲載されている. 二つ目は幾何双対ナップサック多面体の体積に関する近似アルゴリズムである.n次元の幾何双対ナップサック多面体はn次元の正軸体ともう一つのn次元の点の凸包として与えられ,この体積の計算も#P-困難であることが知られている.この計算について,幾何双対ナップサック多面体を正軸体の無限列で近似したのち,その正軸体のユニオンの体積を近似計算する近似アルゴリズムを示した.そして,このアルゴリズムはやはりFPTASであることを示した.この成果はまだ査読中であるが,アルゴリズム研究会での発表が山下記念研究賞を受賞した. 三つ目は閉路のない有向グラフ(Directed Acyclic Graph,DAG)で辺の長さがランダムな場合の最長路長さに関する問題である.DAGが一つの路である場合には,未知の長さの分布関数が上述のナップサック多面体の体積と一致する.本研究はDAGのパス幅が定数である場合についてFPTASを示し,国際会議WALCOM2017で発表を行った.
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