研究課題
がんの発症原因となる要因が次々と発見されている.特に,ゲノムワイド関連研究に代表されるように,近年の遺伝的リスク要因を探索する研究の発展は目覚ましく,生活習慣や環境要因に加え,多くの遺伝的多型が同定されている.これらの発展に伴い,確立されたリスク因子とその効果の大きさからがんの発症リスクを予測し,リスクに基づく予防法の選択や予防介入の実現が期待されている.ここで,予測モデルとは,あるリスク因子を持つ人が今からある一定期間内にがんを発症する確率を推定するモデルのことである.予測モデルの良さやその応用の場を判断するためには,その予測があたるかどうか(予測性能)を評価することが重要となる.予測性能は,モデルから予測される疾患発症確率と実際のリスクがどの程度一致するか(calibration)と将来疾患を発症する人としない人をどの程度区別できるか(discrimination)の二点から評価される.Calibration とdiscriminationは,互いに相補的な評価項目であり,また,それぞれを評価するためにいくつかの指標が提案されている.本年度は,予測モデルの性能を評価する指標の性質や指標間の比較に関する検討を行った.特に,SNPなどのバイオマーカーに関する研究は,コホート研究からサンプリングされた一部の対象者のみからデータが得られることが多い.そこで,このようなサンプリング集団を用いる場合の,calibration,discriminationの指標の検討も行った.今後も,引き続きこれらの検討を続けるとともに,実データへの適応も進める予定である.
3: やや遅れている
既存の予測指標に関して,評価指標の性質や指標間の比較について検討を進めている.特に,discriminationの指標として広く用いられているc-indexを中心に検討を行っている.実データへの応用やそこからの問題の抽出についてはこれから進める予定であるが,全コホート研究データを用いる検討に加え,コホート研究の中の一部の対象者を用いて行う研究デザイン(ネスティッドケース・コントロール研究デザインやケース・コホート研究デザイン)についても検討の対象に入れる予定である.また,並行して,がんの分子サブタイプなど関連する複数の疾患について,共通するリスク因子の影響の違いを評価する方法論的研究を進めている.これらの知見を絶対リスクの推定へも拡張することで予測性能の向上が期待される.そのため,複数のがんを対象とした予測モデルの構築やその評価方法についても取り組む必要があると考えている.
引き続き,予測性能を評価する指標間の比較検討,開発を進める.大きく以下の3つを目標に進める予定である.1.c-index以外の予測評価指標についても,リスク要因の効果の大きさなどとの関係を解析的に導く.さらに,シミュレーション研究によりその性質を明らかにする.2.予測モデルの比較において,予測性能の向上の程度をより良く反映する指標の検討を行う.実データを反映させたシミュレーション研究により,既存の指標間の関係を評価する.さらに,予測モデルの選択に用いることができる新たな指標を検討する.3.1., 2.の検討を他の研究デザインや複数がん全体に対する予測モデルの評価へ拡張することを検討する.実データへの応用については,すでにJPHC研究に携わる疫学の専門家たちとの連携がとれており,課題の抽出も含めて協力的に進めていけるものと考えている.
購入予定であった統計解析ソフトウェアが施設から提供されることになり,本年度分を購入する必要がなくなったため.
シミュレーション用の高性能パソコンの購入に加え,データバックアップ用のハードウェアを購入する予定である.
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Statistics in medicine
巻: 35 ページ: 782-800
10.1002/sim.6793
American journal of epidemiology
巻: 182 ページ: 263-270
10.1093/aje/kwv040